Sucreve
ずるいずるい!



杉元夢というかヴァシリ夢というか。
ヴァシリがちょっと腹黒く、杉元が報われない。

これの続きイメージ。















その日白石という坊主頭が持って来たのは酒だった。
「飲もうぜ」
どん、と置かれた灰色の大きな徳利を、ロシアから来た軍人は興味深そうに眺めた。
「頭巾ちゃんってお酒飲めるのかな」
そう呟いたのはまだ若い女だった、少し前から一行に加わった女だ。女の言葉を受けてアイヌの少女が「飲めないことはないだろう。私だって飲める」と言った。
「そういう問題じゃないと思うけど……」
女がちらりと軍帽の男を見た。視線の先にいた男、杉元は「露スケならウオッカ浴びるように飲むから大丈夫だろ」とどうでもよさそうに返す。飲めようが飲めなかろうが、俺には関係ないとそういった口振りだった。
「じゃあ大丈夫かなぁ」
「飲ませてみればいいんじゃない?」
「それもそうだね」
頷いた女が盃に酒を注ぐ。そうしてそれを隣に座る軍人に差し出した。
「?」
「飲んでいいんだよ」
「そーそー頭巾ちゃんもたまにはいいだろ」
手酌で盃に酒を注いだ坊主頭がそれを煽る。その様子を見ていた軍人も頭巾の口の部分を外し、盃に口を付けた。
「どうかな」
「…………」
それが酒だということは理解したのだろう。フンフンと頭を揺らしているのを見ると口に合ったのかもしれない。よかった、と女が微笑み、少女も「飲めるみたいだな!」と顔を綻ばせた。その直後だった。
「…………」
「え、ちょ、っと、頭巾ちゃん!?」
軍人は盃を持ったまま、ゆっくり横に倒れた。丁度女の膝に頭を乗せる感じだ。それを見ていた杉元が声を上げる。
「テメェ何してんだこの野郎!!」
「杉元さん落ち着いてください……」
女は戸惑いつつも軍人の様子を窺った。軍人の頬は赤くなっており、どこか眠そうだ。
「もしかしてお酒ダメだったのかな……」
「そうかもしれないな。ほら頭巾ちゃん水飲め」
少女が椀を差し出すが軍人は起き上がろうとしない。それどころか目を閉じてしまった。
「無理に飲ませるより起きてからの方がいいかもしれないね」
「そうだな。近くに置いておこう」
うん、と頷く二人に杉元は血が出そうな程唇を噛んだ。その目は血走り、今にも誰か殺すのではないかとすら思えた。
「ひ、膝枕なんてしてやる義理無いと思うからさ、ほら俺の上着丸めて枕にしなよ。足痺れちゃうよ」
早口に言いながら杉元が近寄ってくるが女は「ちょっとくらいなら大丈夫」と笑って辞退した。その柔らかな笑みに「本当優しいんだからぁ」と杉元は目尻を下げる。
「何だ杉元、頭巾ちゃんに嫉妬してるのか」
「ち、違うし嫉妬とかじゃねーし」
「男の嫉妬は見苦しいぜ〜?」
「うるせぇ!」
ふと視線を感じて杉元がそちらを見ると、女の膝を枕にした軍人がどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。瞬時に杉元は理解する。この男は酔っているわけではないと。
「ソイツ絶対素面だって!膝枕なんかしなくていいって!!」
杉元が叫んだ。すると即座に軍人は目を閉じた。そうしてさも自分は寝ていますといった空気で過ごすものだから、女が見下ろした時には軍人は眠っているようにしか見えなかった。
「え?でも、ほら眠そうっていうか寝てますし。……静かにしてあげてください」
「違うんだって本当!!」
再度杉元が訴えるが誰も聞きはしない。坊主頭もアイヌの少女も「これだから男は」と言ったような何とも言えない生温かい視線を向ける。
「杉元ぉ、嫉妬はよくないぞ?」
「ちょっとくらいいいじゃんねぇ」
「だから違うって!!」
杉元の必死の叫びは、誰の耳にも届かなかった。




終.

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