Sucreve
ずるい!
杉元夢というかヴァシリ夢というか。
ヴァシリがちょっと腹黒く、杉元が報われない。
些か過保護すぎやしないかと杉元佐一は思った。
杉元の目の前では女が皿に乗った焼き魚の皮を剥ぎ、小骨を取りながら解してやっている。その女の目は優しく、子供にしてやるような手つきだった。しかしその焼き魚を食べるのは大人の男である。先日から一行に加わったロシアの脱走兵だ。
「ねぇ、ちょっと過保護すぎなぁい?」
いい年した大人の男にさぁ、と杉元が言うと女は「でもお箸慣れてないと思うから」と笑った。
脱走兵が加わってからというもの、女は彼の面倒をよく見る。曰く「言葉もわからなくて不安だろうから」ということだ。しかしやはり杉元は思う。過保護すぎやしないかと。
箸が上手く使えなくとも囓り付けばいいし、言葉が通じなくともそれなりに意思の疎通は出来ている。なのにそこまで世話を焼くのか。杉元は納得がいかなかった。
脱走兵は自分の話をされていると理解しているのかいないのか、女が魚の骨を取る手元を空色の瞳を輝かせながら見つめている。その様子が何となく面白くなくて杉元は女の手から皿を取った。
「案外普通に食えるかもよ?」
女の手から取った皿を脱走兵に差し出す。脱走兵は皿を持ったが、食べるわけでもなく皿の上の魚と女を交互に見た。
「ほら、やっぱり食べにくいって」
苦笑しながら女が手を出すと脱走兵は皿を女の手に戻した。そうして女は再び魚を食べやすくする作業に戻る。
「言ってなくない?甘えてるだけじゃない?」
そう杉元が言うと脱走兵は首を振りながら箸を変な持ち方で持ち、持てない、といったような身振りをした。
「ちょ、今こいつ日本語わかったよ絶対!!」
「え?まさかぁ」
女は魚に夢中で脱走兵の方を見ていなかった。女が視線を向けた頃には、脱走兵は箸を手放してしまっていた。
「日本語わかんないよねぇ。ねー?」
にこにこと女が首を傾けると脱走兵も目を細めながら同じように首を傾ける。それを見た杉元は言った。
「意思疎通出来てんじゃん!!絶対わかってんじゃん!!」
騒ぐ杉元に女は何処吹く風。脱走兵に至っては明らかに嘲笑っているような目で杉元を見ていた。
「この頭巾……!」
これだけ意思疎通出来るんなら甘やかさなくっていいって!杉元の意見はやはり取り入れられる事は無かった。
終.
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