Sucreve
溶けた不安
土方さんと恋仲だけど不安な夢主の話。
わたしの恋人は、とても大人である。年齢的な意味でも精神的な意味でも。
それに引き替えわたしはとても子供だ。彼が他の女性と話しているととてももやもやする。そわそわするし。いらいらもする。そのままわたしじゃない女性の元に行くんじゃないかってすごく不安だ。
最近は女性じゃなくても不安になる。永倉さんや牛山さんと、わたしにはよくわからない話をしているのを見ると怖い。使えないと一人捨てられてしまうんじゃないかって。
わたしは土方さんに本当に必要なんだろうか。そんなことばかりを考えてしまう。
「どうした嬢ちゃん。元気無ぇな」
「あ、牛山さん……」
縁側でしょんぼりしていると牛山さんに声をかけられた。「嫌な事でもあったか」とわたしの隣にしゃがみこむ。
「別に何でもないですよ」
適当に笑っておいた。恋人の私より土方さんに近いあなた方に嫉妬してますなんて言えるわけなかった。
「女の子がそういう顔する時はな、色恋沙汰って相場が決まってんだよ」
「…………」
どうやら全部お見通しらしい。牛山さんはぽんぽんとわたしの頭を撫でた。
「ジジイと上手くいってないのか?」
「……いえ」
それはない。ご飯を作るのを失敗しても「食べられないことなはい」と食べてくれるし、うっかりお茶を零しても「火傷はしていないか?」と優しく気遣ってくれる。夜だってまだ慣れないわたしに「ゆっくり慣れろ」と穏やかな口調で言ってくれるのだ。
上手くいっていないなんて事はない、と思うけれどどうなんだろう。そう思っているのはわたしだけかもしれない。もしかしたらもっと綺麗で大人の女性がいいとか思ってるんじゃないだろうか?わたしより素敵な人を捜しているんじゃないだろうか。所詮わたしみたいな子供とは遊びだとか。
一度考え始めるとどうしても悪い方向にばかりいってしまう。黙っていると牛山さんは「しょうがねぇなぁ」とわたしを抱き寄せた。
「牛山さん……?」
何ですか、と聞くより先に牛山さんはわたしの首筋に顔を埋めた。直後触れた熱と走った痛みにびくりと肩を跳ねさせる。
「!?」
「大方自分じゃ釣り合わないとかそんな事考えてんだろ。心配するだけ無駄だって、それでわかるさ」
「…………」
「じゃあな」
そう言い残して牛山さんは去って行った。足取りが軽いところを見ると街に行くのだろう。
首筋にはまだ少し熱が残っている気がした。感触からきっと吸い跡を残されたのだろうけれど、こんなものあっても土方さんは何も言わないと思う。特に気にもされないんじゃないだろうか。
……浮気とか疑われて捨てられるんじゃないだろうか、とはっとした。どうしよう、消さないと。……消えるの?
カノさんに相談しようと立ち上がったら、名前を呼ばれた。そのとてもよく知った声に身体が固まる。おそるおそる振り向くと、そこに立っていたのは土方さんだった。
「土方さん……」
「牛山と何を話していた?」
「…………」
どこから見られていたのだろう。「世間話です」と適当に答えると腕を掴まれた。そして部屋に引きずり込まれる。後ろ手に障子を閉められ、畳に押し倒された。
「!」
「何を話していたのか、教えて貰おうか?」
「……何でもない、です」
「何でもなくてこのような跡を残されるのか?」
すり、と土方さんの節くれ立った指が首筋を撫でた。そこはさっき牛山さんに吸われたところ。
「一体何を話していた。……まさか牛山の方がよくなったなど、言いはしないだろうな?」
そう言う土方さんの声は低く、腕を掴む力も緩まない。いつになく真剣なその瞳に、やっと土方さんも同じ気持ちだったんだと気付く。
わたしの本心を語っても、きっと土方さんは怒らない。そう確信した。なので「……どうやったら、土方さんに見合う女になれるかなって話してました」と意訳的に話す。
「何?」
「だって、土方さんは大人で、格好いいから、わたしみたいな子供、いつか捨てちゃうんだろうなって」
「……どうやら、私がどれだけお前を想っているか理解出来ていないようだな」
ふ、と声が柔らかくなった。そうして私を押さえつけたまま、土方さんは片手で上着を脱ぎ、釦を外す。
「その身体にしっかりと刻み込んでやろう」
細められた目に、わたしは頷いた。
終.
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