Sucreve
ぼくのしあわせなおうこく



長い長い黒髪を持つ彼は、王様になるだとか子供じみた夢を語るくせに、私を子供扱いする。
「今日も俺のお后様は可愛いなぁ。この小さいお手々もお目々もあんよも全部全部可愛らしい。食っちまいたい」
「…………」
にこにこと語りかけてくる言葉を無視していると「何だよご機嫌ナナメだなぁ」と言われた。
「俺の可愛い可愛いお后様は何がそんなに不満なんだ?ん?」
私を膝に抱え、彼が頬を寄せて来る。さらりとした黒髪が私に絡んだ。
「お腹空いたか?それともおねむか?何か欲しい物があるか?何だって叶えてやるよ、何たって俺は王様なんだから」
「……外に出たいです」
「…………」
にこにことしていた笑顔が一瞬で消えた。真顔になった彼はそのままの表情で私の両肩を掴む。
「……何で」
暗い水の底にも似た真っ黒な瞳に私が映っている。けれど彼は私を見ていないと思う。
「なぁ、お前は俺の后だろ?なのに何でそんな事言うんだ?」
「后でも外に出る事はあると思います」
「ダメだ」
「どうして」
「お前は后なんだ。誰かに襲われたらどうするんだよ」
縋るように彼は言う。震える声で、泣きそうな声で。
「お前は俺よりこんなに小さくてか弱いんだから、簡単に攫われたり殺されたりしちまうじゃないか。大事な俺の后なのに……」
「……私は貴方の后じゃない」
「は?」
肩を掴む手に力が入った。痛くて顔を顰めるが彼は力を緩めない。彼の長い指が私の肩を握る。ぎりぎりと爪が食い込む。
「お前は俺の后だよ」
「ちが……」
「違わない。俺がそう決めたんだ」
彼の声は真剣だった。私の反論も何も聞く気が無いのだろう、彼は私の顔をその広い胸板に押しつけるように抱き締めて、耳元で何度も繰り返す。
「お前は俺の后だ。何処にも行かせないし誰にもやらない。ずっと、俺と二人で此処で暮らすんだ」
「…………」
彼の望む国はそれでいいんだろうか、と口を挟む余地もないくらいに、彼の呟きは止まらなかった。


終.

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