Sucreve
撃ち抜く


尾形とゲームきっかけに仲良くなる話。
尾形視点。









気紛れに落としたのはTPSというタイプのシューティングゲームだった。第三者視点でのシューティング。五人ずつでチームを組んで、制限時間内に勝利条件を先に満たしたチームの勝ち。
他にも似たようなゲームはあるが、キャラクターのゆるさとゲームのぬるさが気に入っていた。あまり殺伐としているわけではなくかといって馴れ合ってばかりというわけでもないのがよかった。
チャットはあるが無反応でも何ら問題はないし、海外のサーバーを使えば滅多に話しかけてくる奴もいない。まぁこれはHNが日本語だからだろうが。
そんな感じで割と気に入った。休みの日は勿論、平日でも帰宅後から寝る前までプレイしてしまうくらいに。

  ◆

(……またいるな)
明日は休みだからと飯も風呂もさっさと済ませてベッドに転がった。勿論手にはスマホ。充電のコードも側に置いた。
いつものようにログインして、スタート地点にいたのは見慣れたHNだった。最近よく見るようになった奴で、使っているキャラクターは衛生兵。
芋ってるくせに変な所から回復してくる妙な奴だ。芋なら芋で動かなけりゃいいのにわざわざジャンプしてまで回復してくることがある。そうしてその間に撃たれている。
無茶すんな、と思いはしながらそいつがいる時は近接戦をするようになった。するとそいつはちょっとくらい遠くにいても何ら気にすることなく回復してくる。
一番広いマップで自陣営から反対端の敵陣営にいる俺を回復した時が一番驚いた。そこから狙えるのかと、わざわざ回復してくれるのかと。それが何となく嬉しくて近接戦をしている。
ただそいつが敵にいる時は別だった。あんな遠距離でも余裕で回復してくる奴だ。砂持ちなら尚更真っ先に排除する対象だ。なので遠くから早めに撃ち殺している。すると即殺し返されるから根に持つタイプなのだろう。
ふと思い立ってそいつに近接戦を仕掛けてみた。飛び跳ねると照準が定まり辛いのでそうするが奴はなかなか撃って来なかった。近接武器に持ち替えているところをみると戦る気はあるらしいがどうやら近接戦は苦手らしい。
向こうも飛び跳ねてはいるがこちらの体力は減らない。恐らく当たってないのだろう。その為簡単に殺せた。何だこんなものか、と距離を取り、勝利条件を満たす為に移動する。
大きな瓶の近くに移動したと思ったらどこからともなく撃ち殺された。殺したのはあいつだった。
なのでまた近接戦を仕掛けてみるがなかなか反撃をくらうこともないのでよっぽど近接戦が苦手なのだろう。またあっさりと殺すことが出来た。
その代わり遠距離に立てば結構な早さで撃たれてしまう。何でそんなに近接苦手なのに遠距離は得意なんだ。
(…………)
また近接戦を仕掛けるかと近付くと、奴は砂だけ持ってこちらを撃つでもなく逃げるでもなく棒立ちになったり、その場で飛び跳ねた。何目的だ。
話しかけてみるかとチャットを開き、「no kill?」と聞いてみるが反応は無い。
サーバーが海外なので一応英語で聞いてみたがこいつはどこの奴なんだろうか。国旗は日本だが日本人でなくても日本と設定していることがあるのであまり当てにならない。
暫く待ったが反応は無かった。わからないという程の英語でもないだろう。チャットを切っているのかもしれない。奴はそのまま暫く跳ねて、ふいと移動していく。やっぱり目的がわからん。
そうこうしている内に制限時間が終わったのでリザルト画面に遷移した。勝敗に興味は無いのですぐさま退室してすぐに別の部屋に入る。
今度は奴が同チームにいた。ならちょっと殺しに行ってくるかと敵陣営に突っ込む。相手の攻撃をもらうが回復してくれるだろうと期待した。しかしなかなか回復してもらえない。
さっき殺しすぎたから仕返しだろうか。奴の所に戻って近くを飛んだ。しかし何もしない。オイ、と手榴弾を投げるとはっとしたように回復してくれた。どうやらスコープをずっと覗いていて気付かなかったようだ。
一応「thx」と礼を言って、また敵陣営に突っ込む。すると今度は体力が全然減って無いにも関わらず回復してくる。そんなにしなくていい。これもこれで仕返しの一環か?と思ってしまった。
今度は勝利条件を満たしたのでゲームが終わる。すぐに退室しようとしてやめた。暫く待てばそのまま別の部屋が立ち上がる。その方法だと引き続き同じチームでいられることが多いのだ。
案の定、次のゲームでも奴と同チームだった。何となく信頼関係のようなものが出来ている気がする。奴は細かく俺を回復するし、二人相手に手こずっていると片方撃ち殺してもくれる。存外こういうのも悪くねぇと思った。

  ◆


それからというもの、ログインした時に奴がいるのを期待する自分がいた。奴がいないとあまり長居せずに落ちる。いたらいなくなるまでプレイする。そんな日々が続いたある日、会社に派遣社員が来る事になった。俺の補佐ということだ。
「よろしくお願いします」と頭を下げた女は垢抜けない雰囲気で、大した興味は湧かなかった。
社内を軽く案内したり、仕事内容を説明する。女はメモ帳にちまちまと文字を書き連ねていた。
「――――ってところか。何か質問はあるか?」
「今のところは大丈夫です。また何かあったらお伺いしてもいいですか?」
「ああ。とりあえずこのデータ入れてくれるか」
「はい」
隣のデスクに女を座らせ、フォーマットを教えてやる。どことなく楽しそうにパソコンに向かう女。かたかたとキーボードを打っている指は化粧っ気が無い。
アクセサリーもつけていないし、爪に何も塗っていないのだろう。光っているわけでもない。香水なんかをつけている様子も無く、今まで遊んだ女共とは違った雰囲気だ。だからといってどうというわけでもないが。
「あの、尾形さん?」
「……ん?」
「入力したものはこのまま保存でいいんですか?」
「……ああ。保存して、共有フォルダに入れておいてくれ。ここだ」
「はい」
教えた通りに操作していく女。その真面目な様子に少しだけ好感が持てた。

  ◆

女が来て一月ほど経った。女は真面目で黙々と仕事をこなす。その仕事ぶりはかなりいい。覚えも早く、一度教えた事は間違えないし、同じ失敗も二度はしなかった。そして仕事が早い。今までにも補佐をつけてもらったことはあったが自分でやった方が遙かに早かった。なのに女に頼むと俺と同じくらいか、少し早い。
おかげで仕事は捗るし残業も殆ど無くなった。たまにどうしても残らないといけない事はあるが、女が他の仕事をはかしてくれているし、必要な書類なんかも用意してくれているおかげでそう長い時間にはならない。
最初は派遣社員ということで多少下に見ていたが、そんな事はなかった。女は補佐という言葉に見合っているし、こういう奴なら一カ所に留まるより色々な所で色々な経験を積むのもいいのだろうと思えた。
そんな女のおかげでゲームをする時間も増えた。休日出勤なんかも無くなったので補佐様々だ。
そういえば、女もゲームが好きらしい。その働きぶりから鶴見部長が直接雇用を持ちかけたらしいのだが、派遣の方がゲームに専念出来ると言われてしまったのだとか。
ウチの会社は派遣社員には残業をさせない。また、社員は系列会社に出向に行くことがあるが派遣社員にはない。確かに安定はしないし不安になることもありはするが、ゲームをする時間が確保出来る、そういう身軽さがいいのだという。
いわゆるオタクなのだろうか。そういう風にも見えないのだが。自分を棚に上げながら、そんな風に思っていた、ある日のことだった。
昼休み、飯に行くかと会社を出てから財布を忘れたのに気付いてUターンした。デスクから財布を取ってふと隣を見れば女は片手でおにぎりを食べながらスマホを横持ちにしていた。
何となく、画面を覗くとそこには見覚えのある柔らかそうな白いキャラクターが銃を持っていた。思わず足を止めて見る。名前が見えそうで見えない。じっと見つめていると女が振り向いた。
「……、あ、す、すみません」
「……何がだ」
「ゲームなんかしてて……」
「休みだから別にいいだろ。……鯖、どこだ」
「へ?」
「……飯買って来る。待ってろ」
「えっ」
近所の店で食うつもりだったがやめた。コンビニでおにぎりを幾つかと、茶を買って戻る。女は既に食べ終わったらしく、スマホに夢中だった。
「おい」
「は、はいっ」
「サーバー、教えろ」
「え、て、いうか尾形さんもプレイされるんですか?」
「ああ」
椅子を少し近づけるようにして、女に鯖を聞く。それは俺が基本的に使っている海外鯖だった。同じゲームに入れるだろうかとログインすれば、見慣れたHNのあいつがいるのに気付く。まさか。
「……お前、名前は」
「今インしたの尾形さんですか?」
「ああ」
「横で跳ねてるのが私です」
「…………」
それは紛れもなく、あいつだった。遠距離が得意なくせに近接が異常に苦手なあの回復兵。
「……というか、これ尾形さんだったんですね。尾形さんは覚えてらっしゃらないと思いますけどちょくちょく同じ時間帯にやってたんですよ」
「……知ってる」
「え」
「お前近接苦手だろ。だから敵にいたら近付いて殺りに行ってた」
「ひどい……」
「何がだよ」
「手加減してくださいよ……」
「そういうゲームじゃねぇだろ。つうか、何でそんな近接苦手なんだよ」
「エイム合わないからですよ」
「遠距離は合うだろ?」
「砂だと点だからちょっと合いやすいんです」
「何だそりゃ」
「あと遠距離だとそんなにちょこまかされないんで」
「……まぁそれはあるな」
遠くにいて全体を見ている方が狙いは定めやすい。敵が近くにいるとどうしても視野は狭くなりやすいから言っていることはわかるがだからといって苦手すぎるだろう。
「尾形さんどっちも得意ですよね」
「ああ」
「羨ましいです」
そう言う女が操るキャラクターは殺されていた。いつの間に。柔らかな死体は敵に撃たれて消滅してしまった。
「何で死んでんだ」
「ゴーストってずるいですよね。姿消して近付けるから」
「その代わり体力低いだろ」
「そうですけど」
「……ゴーストいんのか」
「います。手斧持ってます。私がいい的です」
「…………」
確かに気付くと女が必死に戦っていた。手斧対ハンドガンで何でそう負けるんだお前は。手斧は近付かないと攻撃出来ないんだから距離取ればいいだろうに。
いたたまれなくなったので代わりに殺してやれば、「ありがとうございます!」と回復してくれた。
「お前芋ってろ。動くな」
「そしたら近接で殺られるんですよ」
「…………」
面倒くせぇ、と思いながら「何か来たら教えろ」と言っておいた。
勝利条件を満たそうと女から離れれば、「またゴースト来た」と小声で言われたので振り向いて撃ち殺してやる。
「もういねぇか」
「わかんないですね……。倒して安心しても別のプレイヤーが来る時もありますし」
「まぁな」
「っていうか尾形さんすごいですね。一発で倒すなんて」
「お前が下手なんだよ」
「何も言えない……」
普段なら適当に飯を食っているだけの昼休み。それが存外楽しかったのは、きっと。

  ◆

それから毎日昼休みは女とゲームをするようになった。周りの奴らからは『尾形さんゲームなんかするんだ……』といった視線をもらうが別に気にはならない。楽しければいい。
いつまで経っても女の近接は得意にならず、よく殺されている。その度俺が殺し返しに行ってやる。ただ、敵チームでも勝
利条件にキル数が関わりなければ女を殺さなくなった。殺しても意味が無いし手応えも無いから、と言っているが本当のところは話していない。
今日も、同じようにゲームをして予鈴が鳴ったのでスマホを納めた。今日は金曜日。明日は休みだがこいつは明日もするんだろうか。
休みだから朝からいるかというとそうでもないこともある。どうせなら時間を合わせたかった。
「……お前明日もやるのか」
「え?何をです?」
「ゲーム」
「しますよー。尾形さんもですか?」
「ああ。……なぁ、お前男いんのか?」
「は?何ですかいきなり。セクハラですか」
「違う。……男いないなら、ウチ来てやっても悪くねぇだろ」
「……は?」
ひどく怪訝
な顔で固まる女。背後に宇宙が見えたような気がしたが気のせいだろう。女は怪訝な顔のまま、「……移動とか、面倒なんで」と丁寧なんだか無礼なんだかよくわからない言葉で断ってきた。
「ならお前の家行かせろ」
「えぇ……散らかってますんで……ちょっと……」
「…………」
「ていうか何でですか」
「横にいた方がやりやすいだろ」
「……まあ、それは思いました。人とやるの楽しいんですね」
「だろ?だから休みだし、朝から晩までやれていいじゃねぇか」
「………………」
「まだ文句あんのか」
「明日は昼まで寝る予定で……」
「なら尚更お前の家行く。泊めろ」
「それは何かがおかしくないですか尾形さん」
「同じ会社の奴泊めるだけだ。何も問題は無いだろ」
「あるよ。性別っていう大きな問題が存在してますよ」
「何もしねぇよ」
「えー…………」
「ついでに酒買って、映画でも借りて、お前の家で酒盛りだ」
「……ちょっと楽しそうって思った自分がムカつくけど散らかってるんで来週とかじゃ駄目ですか……」
「だったらウチ来いよ」
「え」
「泊まり用の何かいるなら買って帰りゃいい。金は出してやる」
「………………」
「飯もどっか高いとこで何か奢ってやるよ」
「……そこまで一緒にゲームしたいんですか……」
呆れた様子の女に言われて、一瞬考えた。回りくどい事を言うより、きっと。
「……違ぇよ。お前といたいだけだ」
「!」
みるみるうちに赤くなる女の顔。やっぱり近接は苦手らしい。逃がしてなんかやらねぇから覚悟しとけ、と重ねて言えば女は真っ赤な顔のまま、頷いた。


終.

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