悪趣味
続き書きたくなったんで書きました(2022/05/21)。
もうすぐ誕生日というある日のことだった。恋人の家に遊びに行って、彼の部屋でのんびりしていると神妙な面持ちで彼が言った。
「こちらを」
彼が差し出して来たのは小さな鍵だった。何かアクセサリーの類かと思ったがそうではなさそうだ。
「わたくし、あなたさま以外を抱く気はございません」
「はぁ」
浮気しない的な?と思ったら「これから先一生でございます」と言われた。それとこの鍵に何の関係があるの。私の視線で察したのか、彼は立ち上がるとベルトを外し始めた。
「いきなり何」
「……それは、こちらの鍵でございます」
ベルトを外してスラックスの前を寛げ下着を下ろした、そこには謎の物体?がついていた。金属の籠?のようなものが彼自身を包むようにしている。
「……何それ」
「貞操帯でございます」
「はぁ」
ていそうたい。一瞬脳が理解しなかったけどすぐに貞操帯かと気付く。男性用のもあるんだなんて変な感想を抱いた。
「……じゃあ私の好きな時に外していいってこと?」
「はい、全て貴方様の一存で結構でございます」
「スペアとかは?」
「捨てました」
きぱりと言われてちょっと引いた。いざという時どうすんのっていうか私が失くしたらアウトじゃんと言ったら「信頼しておりますので」とトチ狂った言葉が返ってきた。正気か。
「……気をつけるけど。じゃあ暫くそういうこともしないの?」
「あなたさまにお任せ致します」
それは何か、私から誘わないといけないのか。それは少し恥ずかしいんですけども。けれどノボリは「言葉にされなくともあなたさまの想いはきちんとわかります」と格好いい風の台詞を吐いた。中途半端に脱いでる状態でなければときめけたかもしれない。いや内容が夜のあれについてだからそうでもないか。
「……わかった。とりあえず預かっておくね」
「はい」
今日は別にそういう気分でもないしいいか、と鍵を鞄におさめる。……失くしそうだな。気をつけよう。
それにしてもちょっとこいつとの付き合い方を見直すべきかもしれない。何で浮気しない表明で貞操帯なの。それに鍵くれてもスペアがあるかどうかなんて私にはわからないし。一応捨てたとは言ってるけど。……これが誕生日のプレゼントとか言ったら悪趣味極まりないけど違うよね?
◆
それから一月程、どうにも忙しかった。バトルサブウェイでちょっとしたイベントを行うということでその準備やら片付けやら何やらかんやらで慌ただしかった。ただのてつどういんである自分が忙しいのだからノボリは相当忙しかっただろう。
結局私の誕生日は特に何も無かったが、その埋め合わせで今日、デートをすることになった。とはいえやっぱり疲れてはいるのでおうちデートである。
一応プレゼントということでネックレスを貰ったし、わざわざつけてくれたので私としては大変に満足した。お姫様扱いというのだろうか。そういうのを自然にやってのける辺りいい彼氏だと思う。時々頭おかしいけど。
そうして二人、ソファーで隣り合わせに座ってネット配信されている映画を観る。今時はサブスクとかで観放題なので嬉しい。勿論レンタルショップに行ってパッケージを見ながらどれにするって選ぶのも楽しかったけど。
適当に選んだのは恋愛ものの映画だった。ありがちな、付き合いたての恋人が親の反対にあったりしながらも愛を育むというような純愛。今更私達が観るものでもないでしょうにと思ったもののノボリは感情移入しているらしく画面を凝視しては主人公の男の子と同じような表情を浮かべていた。
彼女と初めて手を繋いだ時の初々しい表情、初めてキスをした時の欲情と純情の合間の表情、周りに祝福されない焦燥、悔しそうに歯噛みする表情。こうしてみると結構表情豊かだよなと思う。いつもは仏頂面で何を考えているのかわからないけど。
「…………」
ノボリのことをじっと見ていたら、不意にノボリがこちらを向いた。ぱちりと目が合って、そっと腰に手が回される。私の名前を呼びながらノボリの手が頬を撫でた。
目を閉じれば唇に温かなものを感じた。触れた濡れた感触を、隙間を開けて受け入れれば口付けはより深くなった。
キスしたままソファーに押し倒される。頭をぶつけないようにだろう、しっかりと抱き締められてからそうっと横にされた。ネックレスがちゃり、と首元で揺れる。
唇を離した時のノボリの表情は何とも物欲しそうで、目が欲にぎらついていた。この先のことを考えて、ふっとイタズラ心が湧いた。
わざとらしくノボリの胸板に手を当てる。シャツ越しでも鼓動を感じて、興奮しているのがわかった。
ノボリが何か言うより先に、私が口を開いた。
「私、今日鍵持って来てないよ」
「えっ」
ノボリの顔から血が引くのがわかった。目に見えてさぁっと顔が青くなる。こんな風になるのは珍しい。普段は驚くどころか動揺することすらしないのに。
「失くしたら大変だから、家の、ジュエリーボックスの中に入れてあるの。どうせ今日は疲れてるからしないだろうなって思って持って来なかった」
「…………」
何と言っていいのかわからないのだろう、ノボリははくはくと唇を動かすだけ。
「私の一存で外していいって言うから。そもそも私もそんな気分じゃなかったし」
「です、が」
ノボリの手が震える。確かにキスは受け入れたけどその先に持って行くつもりはなかったと告げるとノボリは絶望に似た表情を浮かべた。
「キスだけなら、いいよ」
「……っ」
辛いのだろう。しかし私に触れたくないわけではないらしい。ノボリは視線をさまよわせて、再度私に口付けた。さっき程の勢いが無いのは理性を保つ為だろうか。舌すらも震えている気がする。
どこかぎこちない動きに私から舌を絡めるようにしてやるとノボリはびっくりしたような声を漏らした。
ノボリの首に腕を回して逃げられなくして、口の中を愛撫する。この辺好きでしょ、なんて思いながら奥まった所を舌先でつついた。
「……ぅ、は……」
ノボリが身体を起こして無理矢理キスを終わらせる。涙目で顔が赤くて、辛いのがひしひしと伝わってきた。
「……そんなに辛いの?」
「は、い……」
辛いし痛い、と小さく呟くノボリ。……この様子だと本当にスペアの鍵は無いらしい。あれば取って来るだろうし。
彼は正気じゃないかもしれないけど本気だったんだなとその瞬間理解した。
私も起き上がってノボリに抱きつく。ノボリの身体はひどく熱い。
「ノボリ、……好きだよ」
「っ、……煽らないでくださいまし……っ」
こんな言葉一つも彼の欲を煽る材料になるらしい。ノボリは唇を噛んで、必死に耐えているようだった。何て可愛い彼氏だろう。普段はあんなに凛としていて格好いいのに。
「好き。大好き」
「で、すから……っ!」
彼の言葉を遮るようにまたキスをした。戸惑いながらも応えてくれる辺りも可愛らしい。
本当は鍵を持っていると言ったら彼はどんな反応をするだろうか。私の方がよっぽど悪趣味かもしれない。
暫くそうやってキスだけを続けて、ノボリが「も、もうやめにしませんか……」と涙声で言った。熱を発散出来ないのが辛いのだろう。
その顔が可愛くて、愛しくて、ノボリの頬を撫でながら言った。
「……ごめんね。鍵、あるんだ」
「……は、い?」
ぽかんとした顔というのはこういうものですというくらいの表情でノボリは固まった。私の言葉を理解出来てないのか、何度も瞬きを繰り返す。
なのでノボリに一旦退いてもらって、鞄のキーケースから鍵を出した。
「鍵、あるんだ」
もう一度同じことを言うとノボリは目を白黒させて、「……意地悪でございます……っ」と頬を赤くした。
「ごめんね?……こんな私は嫌い?」
「そんなことはありません、が……」
知っている。ノボリは何があろうと私を嫌いにならない。理由はわからないが彼は何故か私のことが好きすぎる。だからこそ貞操帯なんかを自発的につけたわけだし。
嫌いになんてなるわけがない、けどすぐにすり寄れる程でもないらしい。
なのでまたキスをしてやった。私の舌を拒むように閉じられた唇を軽く舐めると少し間を開けてから導かれた。それに従い舌を進めると軽く吸われる。暫くキスを堪能してからノボリは唇を離した。その表情はいつものノボリで、もう落ち着いたんだなとわかる。
「……外す?」
「はいっ!」
予想外の大きな声に笑った。ノボリは立ち上がってズボンのベルトを外すと下着ごと下ろす。そこにはこの間見た貞操帯がしっかりとあった。鳥かごのような形のそれをしげしげ眺めていると「早く外してくださいまし」と切なげに言われてしまった。
「……えー、ど、どうやって外すのこれ」
「この辺りに鍵穴があるはずです」
「あ、あった」
ノボリの指示に従って鍵を外してそれを取る。解放されたノボリ自身はがちがちになっていた。キスしかしてないよねと呟くとノボリは恥ずかしそうに目を泳がせる。
「口でしよっか?」
「……あなたさまを、抱きたいです。……あなたさまの中で果てたい」
言いながらノボリは私をソファーに押し倒す。余程限界なのか、潤んでるくせにその目はぎらぎらとしていた。
「……うん、私もノボリが欲しい」
ノボリにはキスしかしてないよねと言ったけれど、私も同じだ。ノボリのことが欲しくてたまらない。身体の奥が熱を持ち、彼を受け入れる準備を始めている。
ノボリの手が私の服を脱がせる。前開きのブラウスのボタンを一つずつ外すその手は震えている。衝動のまま襲いたいのを必死に我慢しているのだろう。こんな時でも彼は優しい。
手伝うように自分もボタンを外して、腕を抜いて。協力的な私の額にノボリはキスしてくれた。
そのまま全て脱がされ、ノボリに見下ろされる。明るいリビングで、昼間からこんなことをするだなんて普段のノボリからは考えられない。
ノボリの手が足を撫で、隙間に手のひらを差し入れる。内腿をさすりながらそこに触れた。
そこが既に濡れているからだろう、ノボリは目を細めていつもより遥かに性急な愛撫を始めた。
まだ少ない蜜を掬って指先に纒わせたかと思うとそのまま侵入させる。意外と太いノボリの指はそこをこじ開けていく。
「っ、ん」
「痛みますか……?」
「ううん、……気持ちいい」
吐息に艶が混じっているのをノボリも感じたらしくそのままぐちゅりと音を立てながら私の中を指で慣らす。
抜き差しして、指を増やして中で広げて、ノボリのモノが入るようにしていく。合間に胸を触られて、キスを繰り返して、そこはすっかりとノボリを受け入れられるようになっていた。
「ん、ノボリ、ちょうだい?」
「はい……」
身体を起こすとどこからともなくコンドームを出すノボリ。荒い息で、それを彼自身に被せた。
私の足を担ぐようにしてノボリが覆い被さってくる。薄いゴム越しに熱を感じた。
「ぁ……」
私を気遣うような早さで彼が入ってくる。優しいのは嬉しいけど焦らされてるような気にもなる。さっきの仕返しとかだったらどうしよう。
不安になったのも束の間、彼はすぐに律動を始めた。私を強く抱き締めて、深い所へと楔を打ち込む。
「ふぁ、あっ!」
思いの外強い動きが苦しくて彼の背に爪を立てた時だった。ノボリはびく、と身体を震わせて動きを止めた。イッた?早くない?え?
「……ノボリ?」
彼の手が緩んだので顔を見ると、頬から耳から真っ赤に染めた上涙目になっていた。
「…………も、うしわけ、ございません……」
そんな今にも泣きそうな顔で謝らないで欲しい。こっちが悪いことしたみたいじゃん。
「……久しぶりだったもんね」
何て言っていいのかわからなかったので変なフォローをしてしまった。ノボリは無言で頷いて、ずるりと身体を離す。
「ん……」
「……もう、一度、よろしいですか……?」
コンドームを外して、涙目のままノボリが聞いてくる。久しぶりなのに焦らした私も悪いし何より熱は収まっていない。「当たり前でしょ?」と腕を広げれば私の名前を呼びながら再びのしかかってくる。
身体の奥まで満たされるのが心地よくてノボリの手に触れた。するとノボリは手を握り返してくれる。じわじわと指を動かして絡めて、「愛しています」と囁いた。
「……っ」
上擦った声で何度も名を呼ばれて揺さぶられて。水音と荒い息とベッドが軋む音が響く中何も考えられなくなっていく。
「ん、ノボ、リ、ノボリ……っ」
ノボリの背に強く爪を立てて達すればノボリも動きを止めて身体を震わせた。耳に熱い息がかかる。
身体を離しつつ、お互い呼吸を落ち着けてから目を合わせてキスをした。そんなことをしていればまた体内で熱が燻り始める。
ベッド行こう?と誘うより先にノボリが「……ベッドへお連れしても?」と言った。
「勿論」
答えるとノボリは嬉しそうに私を抱え上げる。テレビで流れっ放しの映画はいつの間にかエンドロールになっていた。
また今度一緒に見ようなんて思って、でもその時には今日の記憶も思い出されるんだろうなと気が付いた。こんな、真っ昼間からソファーでするような記憶が純愛映画と一緒に再生されるのはとても嫌である。
私は、いやノボリもきっと、この映画の結末を知らないままなんだろうなとノボリの腕の中で苦笑した。
end.
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