Sucreve

捕まえた




【捕まった】のノボリさん視点です。





わたくしはヤンデレというものだそうでございます。自分では全くそう思わないのですが、世間一般の常識的な恋愛に当てはめますとどうもおかしいようです。
恋人と同じ物を持ち、いつ如何なる時も共にいたいと願うのはおかしいことでしょうか。それが叶わぬならば頻繁に連絡を取るべきだと思うのですがそれはどうして受け入れられないのでしょうか。
常々そう思っておりましたわたくしでしたがある日のことでした。運命の方に出会ったのです。
彼女はここ、バトルサブウェイに配属されて半年程の方でした。
わたくしが何気なく「わたくしの何がいけないのでしょう」と呟きますと、彼女は「あー……まぁ、感じ方は人それぞれですからね。全部受け止めてくれる人捜したらいいんじゃないですか?」と仰ったのです。
初めてでございました。そのような事を仰ってくださった方は。今まで誰にどう相談してもわたくしが異常だ、おかしい、相手は何も悪くないといった回答しか得られませんでした。ところが彼女は違ったのです。
わたくしを否定することなく、むしろ相手が悪いんじゃないかとでもいうような口調でもって、そう仰ったのです。
その衝撃たるや、何と表現していいのやら。勝負で圧倒的な劣勢をひっくり返した時よりも遙かに嬉しい事でございました。

  ◆

それからわたくしは彼女にたくさん話しかけました。主にヤンデレという方々の行為について。ただわたくしにとってはそれらは当然である行為でした。
きっとどこかで否定されるのだろうと思っておりましたがそのような事は一回たりともありませんでした。
同じ物を持ちたいと言えば「お揃いいいですよねぇ」と笑い、「連絡が途切れると不安になる」と言えば「私自分から連絡切るの苦手なんですよね」と返され、更にはストーカー行為にも監禁にもわたくしを許容するような反応をしてくださったのです。
ああ、やはり彼女はわたくしの運命の相手です。何をしても、わたくしを否定することなく受け入れてくださるのですから。
彼女と共に暮らす場所も用意致しました。念の為と枷も準備しております。近い内にそちらへ案内して、そのまま幸せな生活を始めましょう。
…………そう、思っておりました。そう、信じておりました。ですがある日、勤務を終えた彼女は普段と全く違う姿をしておりました。
動き辛いからとパンツスーツ一択である彼女の服は柔らかな裾の広がりを見せるワンピースに変わり、これまた同じく苦手だからとヒールの無い靴ばかりを履いていた筈の足下はストラップのついた可愛らしいパンプスに変わり、一つにまとめられている髪の毛は下ろされて、化粧もいつもより少し濃く、きらきらと輝いておりました。
その格好はどう見ても今から出かけるといった雰囲気でした。そう、例えるならデートに行くような。
その考えに至った途端頭が真っ白になりました。デート?一体
どこの誰と。今まで恋人が出来たといったような素振りはありませんでした。なのに、何故突然。
彼女が帰ろうとするのを腕を掴んで止めました。普段と格好が違うことを追及しますと彼女は「合コンに行く」といった事を申しました。
何を言っているのかわかりませんでした。だって、あなたさまはわたくしの運命の人で、そのような場所に行く必要なんてなくて。むしろ、そのような場所に行くことが許されているわけがありません。わたくしという存在がありながら何故斯様な場所に向かわれるのでしょう。幾ら数合わせといえ、付き合いといえ、わたくしの看過出来る次元を遙かに越えておりました。
「あなたさまはわたくしの運命の相手なのに何故そのような場所に行かれるのですか」
率直に尋ねますと彼女は「は!?」と素っ頓狂な声を上げました。
「わたくしを否定しなかったのはあなたさまが初めてでございました。ですからわたくしあなたさまがわたくしの運命の相手だと信じております。あなたさまだってわたくしと同じ思いを抱えて生きてこられたのでしょう?でしたらわたくしを選ぶべきでございます」
そう語りかけますが彼女の表情は硬いまま。むしろわたくしを拒否してきた今までの方々にとてもよく似た表情でございました。
ああ、このままでは彼女はわたくしの元からいなくなる。不安に駆られたわたくしの口はつらつらと今後の展望を述べてゆきます。
「ちゃんとマンションも契約いたしました。一応わたくしあなたさまの上司ですし関係性はそう悪くは無いと自負しておりますが今の反応を拝見しますとどうやらわたくしへの好意は無さそうですね。枷をはめるのは少しばかり心苦しくはありますがわたくしを好きになっていただけましたら外しますので」
それを聞いた彼女の顔はどんどんと青ざめてゆきました。これはよろしくない。ですが何故彼女はそのような反応をするのでしょう。わたくしの運命の方であるというのに、どうしてそのように怯えた顔をするのでしょう。
彼女が大きく口を開きます。何事か叫ぶのだろうと思ったわたくしは咄嗟に彼女の腹部に拳を入れていました。小さく彼女が喘いでその身体を崩します。抱えた彼女はとても軽くて小さくて、ともすれば壊してしまいそうなくらいに脆く感じました。
「やっと、捕まえました。わたくしの愛しい人」
その言葉は届いたでしょうか。いえ、届かなくとも構いません。これから先、嫌というほど囁きますので。




その後の事でございますか?それはわたくしと彼女だけの秘密にさせてくださいまし。……ただ一つ申し上げるのでしたら、わたくし、大変に幸せでございます。


end.


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