暴走特急列車
他に好きな人がいるなら別れてもいいよと言うとノボリは「は?」と素っ頓狂な声を上げて目を白黒させた。なので、もう一度同じ事を言う。
「他に好きな人が出来たなら別れよっか」
「な、何の話でございますか?」
あわあわとノボリが私に手を伸ばす。ぎゅ、と抱き締めてきたので「最近女物の香水の匂いがする。私と同じやつ」と言うとノボリの腕に力がこもった。より強くその香りを感じてちょっともやっとする。
「……それ、は……その」
「同じ匂いならバレないと思った?」
そう聞くと「それは違います」と思い切り首を振る。
「じゃあ何で」
私の移り香というわけではない。朝初めて会った時ですら感じるんだからそれはない。浮気でなければ何なんだ、と追及するとノボリはたっぷり三分程言葉を口の中でこねまわして、やっと吐き出した。
「……眠れぬ夜に、あなた様の、香りを感じたくて、あなたさまの使っている香水を買いました」
「はい?」
一瞬理解出来なかったので聞き返すと同じ事を繰り返される。
「……ノボリそんな寂しがり屋だっけ?」
「さ、寂しい寂しくないの問題ではございません。あなたさまと片時も離れたくないと思っておりますだけで」
だから寂しいんじゃん?と思ったけど耳まで真っ赤にしながらそんな事を言われては何も言えない。というか私の彼氏が可愛い。
「じゃあ泊まりに行ってあげようか」
「……どうせ、なら、……一晩泊まるだけではなく、……その、一緒に、住みませんか」
「ああ、同棲?……そうだね、ノボリならいいかな」
「…………」
何故かノボリは無反応。いいよって言ったのに。
「ノボリ?」
「……いえ、このような場で言う事ではございませんので……後日改めて申したいと思います」
右往左往する視線と未だ赤いままの頬に何となく察した。そうね、一般的には浮気疑われた場で言うような事ではないかな。
けど別に嫌ではないから今言ってくれてもいいけど、なんて呟いたらそのまま役所に引きずられるなんて思わなかった。この暴走特急列車め。
end.
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