Sucreve

予想外



予定外の夢主視点。





「ノボリさん、好きです!」
だから手袋ください、と言うとノボリさんは「わたくしに勝てたら差し上げましょう」と微笑んだ。よしきた、とポケモンを出してバトルを開始する。ここはバトルサブウェイシングルトレイン三周目の七両目。バトルをするしか、ない。

  ◆

結論から言うと勝った。今日は珍しく攻撃が上手く当たって、勝てた。そりゃ一応対策とかしてるけどもここまでストレートなのは初めてだった。
「やったー!」
「ブラボー!」
手放しに誉めてくれるノボリさん。そうして「それではお約束のこちらを」と手袋を外して、私にくれた。まさか本当にくれるとは……!!正直約束はしたけどちょっと、とか言われると思っていた。まだノボリさんの温もりが残る手袋を握り締める。どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい。
「それでは、またのご乗車お待ちしております」
「はい!!」
手袋を大切にビニール袋に納めて鞄に入れた、早速帰って飾ろう。

  ◆

私がノボリさんに恋をしたのは一年程前。バトルサブウェイのイベントで見かけて恋に落ちたのだ。一目惚れだった。そうしてどうにか彼に会いたいとよくわからない育成論の本を読んで実行して何とかノボリさんに会えるくらいにはなれた。
初めてノボリさんとバトルした時、私は真っ先に告白していた。ノボリさんはその無表情を一切崩すことなく「左様でございますか」と私の想いを否定しなかった。……肯定もされなかったけど。きっと本気だとは思われなかったのだろう。
なので如何に私が本気かということを伝えたくて週に一回はバトルトレインに乗っている。なので顔と名前は覚えてもらえた。
更に少し前にダメ元で「もし私が勝ったら一緒に写真撮ってください!」とお願いしたらノボリさんは珍しく口元を緩ませて「あなたさまが勝ちましたら、構いませんよ」と言ってくれた。……その時は負けてしまったけれど何度か挑んで勝てた時にはちゃんと写真を撮ってくれた。撮った写真は机の上の写真立てに大切に飾ってある。
そこからちょっとずつお願いはエスカレートして、握手してくださいとか頭撫でてくださいとか、貰っても問題無い物があればください!とかお願いするように……って思い返すと我ながらひどいな……。ボールペンみたいな物なら私のと交換でお願いします!とかギリギリ等価交換してもらったりしたけど私物くださいってどうなの私……。ノボリさんも何でくれるの……。手袋なんかよくくれたな……。急に鞄が重さを増した気がした。
流石にこれ以上はまずい気がする。この先何かとんでもないことを口にしてしまいそうだ。付き合ってくださいとか言っちゃいそうだしノボリさんも勝てたらいいよってOKくれそう。あの人は真面目なんだ。
一度、本当に冗談半分でコートをねだったら「わたくしに勝ちましたら、どうぞ」といつものように言って、うっかり勝ってしまった。
ノボリさんは躊躇いなくコートを脱ごうとしたものだから「すみません冗談ですごめんなさい!」と平謝りした。あの時のノボリさんの目はマジだった。
その時は何やかんやでハンカチを頂いてしまった。手袋と何が違うのと言われそうだが手袋はおそらく制服。ならば支給されるはずだから……いやそっち貰う方がまずいのでは……?だって会社の物でしょ……?あれ……?
今更ながらかなり申し訳ないことをしてしまったのではと血の気が引く。これは……そろそろブラックリストに載ってるんじゃないか私の名前。出禁になってないのかしら私。
頭がだいぶ冷えた。暫くバトルサブウェイ行くのやめよう……。

  ◆

バトルサブウェイに行かなくなって一ヶ月程経った。最低でも四回ノボリさんに会っている期間を何もせず過ごしてしまった。いつもなら孵化作業やら厳選やらしていたが何もしていない。
戦わないのであれば厳選なんてする必要が無い。というか、目的が無い。私の目的はただノボリさんに会いたいだとか勝ちたいだとかそういうものだ。だから彼に会いに行かなくなった今、それらは何の意味も無くなっている。
「……会いたいなぁ」
行動を止めたからといって想いを止められるわけもなく、私はライモンシティに遊びに来ていた。遠目にバトルサブウェイを眺めて呟く。ノボリさんに会いたいけど会えないけど、同じ空気を吸っている気にだけなりたい。
ストーカーというかヤンデレだよな、と苦笑しながら帰ろうとした。くるりと振り返ったそこには、会いたくて会いたくてたまらなかった彼がいた。
「あ、ノボリ、さん……」
いつもの黒いコートを着た彼が私の目の前に立っている。その表情は険しくて、いつもより何だか怖かった。
何と言っていいのかわからず、また何でノボリさんがこんなところにいるのかもわからず、視線をあちらこちらへ動かしているとノボリさんが言った。
「何故最近会いに来てくださらないのですか他に好きな男ができたのですか先程会いたいと仰ったのは何処の誰ですかもうわたくしから興味は無くなってしまったのですか」
抑揚の無い、冷たい声がつらつらと言葉を並べる。何を言っているのか上
手く理解出来ない。こんなノボリさん初めて見た。
「わたくしはずっと待っていましたのに、あなたさまがいらっしゃるのを待って、色々準備もして、なのに」
ノボリさんの目はぎらぎらとしていて妙な恐怖を覚えた。その異常な瞳で私を見つめて動かない。
「あなたさまはわたくしを愛していらっしゃるから安心しておりましたのに逃げられる心配は無いと思っておりましたのにこれではいけません、あなたさまがいついなくなるか、いつわたくしを置いて行くかわかったものではない」
矢継ぎ早に繰り出される言葉は早口で止まる気配が無い。一体何を言っているのかと聞き返そうとしたがノボリさんがそれを許してはくれなかった。
「やはり、愛しい方は閉じこめておくしかないのですね」
「え、何……を……」
ばちん、と何か強い衝撃が身体を襲う。痛みを感じるより先に身体が傾いだ。それをノボリさんは易々と受け止める。
「暫しお休みくださいまし。……あなたさまに手荒な真似をしますのは今回限りでございますので」
目を閉じる前に見えたノボリさんはいつも以上に無表情だった。



end.


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