Sucreve

予測外


ノボリさんはおかしいし夢主もおかしい。






恋人が出来た。バトルサブウェイの一番強い、偉い人、ノボリさん。彼に会いたいが為に必死でポケモンについて学んでやっと彼の元へ辿り着けた時は幸せだった。秒殺されたけど。
その後、もしも彼に勝つことが出来たら告白しようなんて思って何度も何度も通った。時には彼に会う前に負けてしまうこともあったけれど割と安定して会えるようになっていた。
その頃にはノボリさんも私を覚えてくれていて、ステーションで話しかけてくれることもあった。
このままの関係でいたい気持ちもあったけど彼の特別になりたくて、ある日ノボリさんに告白した。初めてノボリさんに勝てた日だった。
ずっと前から好きでしたと言う私にノボリさんはひどく驚いた顔をして、見たことないくらいに優しい顔で「わたくしもでございます」と言った。
一瞬ノボリさんの発言が理解出来なくて固まった。けどすぐにノボリさんは「わたくし達、今日から恋人同士でございますね」と笑う。初めて見た笑顔に心臓がどきんと跳ねた。
そこからお付き合いを始めたわけだけど、とても幸せである。ライブキャスター越しではあるが、毎日おはようとおやすみを言い合って、空いた時間にも連絡を取り、週に何度かは彼に会いに行く。
彼が他のてつどういんさんと話してるのを見るとどうしてもイライラしてしまって、その人がいなくなってから「……他の人と話して欲しくないです」なんてわがままを言っても彼は「仕事の内容だけは許していただけませんか?それ以外は全て断ちますので」と優しく言ってくれた。
そんな生活を始めて一ヶ月程。ある日雑誌でヤンデレ特集というのを見た。こんな女に気をつけろ、というものだった。
常に連絡を取りたがるとか会いたがるとか他の人間に敵意を向けるとか束縛しちゃうとか。私じゃん。と真っ先に思った。
連絡は毎日、毎朝毎晩とっているし、空いた時間があれば「今何してますか」と送っている。週に何度か……三回くらいだろうか。彼に会いに行くし、他の人と話してほしくないなんてわがままも言った。よし、ヤンデレだ。
ヤンデレなんて有り得ない、地雷でしかないといった文言ばかりが並ぶ紙面。どうしよう。このままじゃノボリさんに嫌われちゃう。
そう考えると恐ろしくなって、まずは会いに行く回数を減らした。週に三回を一回に減らした。でも連絡を取るのはなかなかやめられない。せめて少しずつ減らしていかねば。……おはようとおやすみだけなら許されるかなぁ。
そんな感じでちょっとずつノボリさんに執着するのを減らしているとノボリさんに呼び出された。
バトルサブウェイにある応接室に通され、ノボリさんと向かい合わせに座る。てつどういんさんがお茶を出してくれた。
「……それで、お伺いしたいことがあるのですが」
「は、はい……」
妙にかしこまった様子にどうしていいかわからず膝の上で握り拳を作る。まさか別れ話。でもそれなら聞きたいことがあるとは言わないか。
「最近、あまりバトルサブウェイにいらっしゃらないのは何か理由がおありでしょうか」
「えっ」
「以前は週に三回、時には四回いらっしゃることもありましたがこのところ週に一度しかお見えになっていませんよね」
「あー、……はい」
「それとあまり連絡をくださらないのは何故でしょうか。以前でしたらあなたさまの手すきの時間に何かしらの連絡をいただいていたと思うのですが、何故このところそれが無くなってしまったのでしょうか。お忙しいのですか?」
確かにめちゃくちゃ通ったり沢山連絡してたのにそれがいきなり無くなると怪しいか。とはいえノボリさんもその方が楽だろうと思うので、雑誌でヤンデレは嫌われるといった記事を読んだことを話した。だからあんまり来なくなったし、連絡も控えているのだと。
黙って私の話を聞いていたノボリさんは深い溜息をついてから「……そのようなこと、お気になさらずともよろしいですよ」と言った。
「で、でも……」
「あなたさまに何かあったのではと不安になりますし、わたくしもあなたさまに会うのを楽しみにしております」
「…………」
「勿論連絡も嬉しいことです。あなたさまと同じ時間を共有出来ているのだと。ですからどうかお気になさらず、以前のようにしていただけませんか?」
「で、も……」
迷惑だとか重いだとか思いませんか。重ねて聞くがノボリさんはゆるやかに首を振るだけ。何も迷惑なんかではないし重いとも思わない。それだけ愛されているとわかって嬉しいのだと。
「……じゃあ、……はい」
「ありがとうございます。これでわたくしも安心出来ます」
本気で言っているのだろうか。ノボリさんは穏やかな笑みを浮かべていた。

  ◆

ノボリさんに呼び出されてから数日。元の通りに戻すと言ってもやはり嫌われたくなくて、あんまり連絡を取らずにいた。おはようとおやすみは送るけど、合間の時間の「今何してますか」は全然送っていない。バトルサブウェイに行くのは三回にした。それ以上は行かないようにしている。
そうやって二週間程。ある日のバトル終わりにノボリさんに「少々お時間よろしいでしょうか」と声をかけられた。何となく空気が怖くて頷くしかなかった。
連れて行かれたのはこの間もお邪魔した応接室。今日はノボリさんがコーヒーを入れてくれた。
「ありがとうございます……」
「いえ。……それで、お話ししたいことがございます」
「はい……」
「先日も申し上げましたように、わたくしあなたさまがお手すきの際には連絡をいただきたいと思っておりますし、可能であれば週に三回ではなくそれ以上いらしていただきたいのですが一向にそうしていただけないのは何故でしょうか」
まさかのお願いだった。おかしいなこの間嫌われたくないとかいう話をしたはずなんだけど。
思いながらこの間の話をもう一度しようとしたら「それは先日もお伺い致しました」と途中で切られた。
「そのようなことであなたさまに対して嫌悪の感情は湧きません。……どころか、今の方が不安で、怖いと思います。あなたさまが他に気を移しているのではないかと」
ノボリさんが真っ直ぐ私を見る。そんな風に思われるなんて全くの予想外だ。他に好きな人なんて、気になる人なんていませんと首を振る。
「……では、わたくしから連絡させていただくのは問題ありませんね?」
「え?」
「今まではあなたさまからご連絡いただけておりましたのでその必要も無いと思っておりましたがあなたさまが連絡しづらいと仰るのでしたらわたくしから連絡致し
ます。それなら迷惑でも何でもないでしょう?」
「そ、うですね……」
確かにノボリさんから連絡してもらえれば空いた時間なんだということがわかるからこっちとしても反応しやすい。
それじゃあそういうことで、と話は落ち着いた。

  ◆

ノボリさんから連絡をする、と宣言されて数日。私は溜まった未読と着信ありの通知を見て遠い目をした。あれからノボリさんがめっちゃ連絡してくるようになったのだ。
夜はおやすみなさいと送ったらそれ以降は来ない。翌日、決まった時間に「おはようございます」と送られてくるのでそれにこちらも挨拶を返したらそこからはもうノボリさんの独壇場だ。めっちゃ連絡が来る。この人仕事してないの?ってくらい。
もしかして今日はお休みですかと初日に聞いてみたら「仕事でございますが手が空いておりまして」と返ってきた。そっかー。……そんな暇なの?暇じゃないよねバトルサブウェイ。
ノボリさんが仕事の日でもそうなのだから休みの日はもっとひどい。毎秒何かしら送られてきているような錯覚すらある。こちらも休みならともかく仕事があるので暫く返事が出来ません、と送れば「かしこまりました。それでは返信はお手すきの際で結構です」と言いながらやっぱり連絡がくる。こっちが見てなくてもお構いなしだ。今バトルが終わったとか昼食を取ったとか、会いたいとか好きだとか今何を考えているのかとか。
更に毎日のように会いたいと言われるようになった。なので休みの日は絶対デートするようになったし、仕事の日でもほんの数分でもいいから会いたいと言われる。結果、毎日会社まで迎えに来てくれるようになった。……嬉しいけど何で?というか、ノボリさんもヤンデレ……?
脳裏を掠めた考えに首を振る。あんな真面目な人がヤンデレだなんて有り得ない。きっとヤンデレじみた行為をすることで如何にヤンデレが面倒なのか理解させようとしてくれてるんだ。そうに違いない。そうだよねまさかヤンデレじゃないよねどうしようヤンデレがゲシュタルト崩壊してきた。
そんなことを考えている間にも通知は増える。お仕事お疲れ様ですだの今日はどれくらいに終わりそうですかだの。やっぱりこれはヤンデレなのでは……?
この間の雑誌の内容を思い出す。常に連絡を取りたがるとか会いたがるとか他の人間に敵意を向けるとか束縛しちゃうとか。うん、どれも該当する。
ご覧の通り連絡はめちゃくちゃしてくるし会いたがってるし私が職場の人と話しながら会社を出たら何とも言えないオーラ出してるし出かける時は事前に教えて欲しいと言われて都合がつけば必ず一緒に行くし。
ヤンデレかぁ……と思って、それが嫌ではない自分が確かに存在した。だって私もしたいもん。っていうか、ノボリさんは私の運命の人なのでは?だって同じ事考えてるってことでしょう?そんなの運命じゃないか。
思いながら指先で返事をする。今日は定時で上がれますよと送ると『ブラボー!!』と返ってきた。きっと迎えに来てくれるんだろう。ノボリさんは忙しくないのか聞けば『あなたさまに会う為超特急で片付けております』とのこと。嬉しいけど無理しないでくださいねと送っておいた。
私も早く仕事終わらせよう、と「ちょっと返事遅れますね」と送る。まるで私の意図をわかってくれているようにノボリさんは『お仕事頑張ってくださいまし』と言ってくれた。優しい人だ。

  ◆

終業のチャイムと同時に席を立った。エレベーターの中で「仕事終わりました!」とノボリさんに送ると、すぐにノボリさんから『今日も一日お疲れさまです。お待ちしております』と連絡がきた。早く下につかないかなとそわそわする。
扉が開いて、他の人を押し退けないようにしつつ、それでも出来るだけの早足で会社を出た。
「ノボリさん!」
会社の目の前で立って待っていたノボリさんを見つけて駆け寄る。ノボリさんは「お仕事お疲れさまでございます」と笑ってくれた。
「ノボリさんもお仕事お疲れさまです」
「ありがとうございます」
よろしければこのまま夕食など、はい、是非。そんなことを話しながらオフィス街を歩く。
「……ねぇ、ノボリさん」
「はい」
「前にヤンデレは嫌われるって話したと思うんですけど」
「わたくしは嫌ったり致しませんよ」
「はい。知ってます。……どっちかっていうと、ノボリさんもヤンデレだなって」
だから私達とっても気が合うんですよなんて言おうとしたのが出来なかった。急にノボリさんに抱き締められたのだ。
「え、あの、」
意外とたくましい胸板にときめいていると頭上からノボリさんの声が降ってくる。その声は聞いたことが無いくらい低かった。
「……わたくしを嫌いになってしまわれたと、そういうことでしょうか。大変申し訳ありませんがわたくしあなたさまを手放す気など毛頭ございません。もし、万が一わたくしから離れたいとそう仰るのでしたらわたくしどのような手段をもってしてでもそれを阻止致します」
全く予想もしていなかったノボリさんの反応に慌てた。違うの、そうじゃないっていうか本当ヤンデレだこの人。
「違います!そうじゃなくて!……私も、ヤンデレだからお似合いだな、って思った、んです……」
いざ口にすると恥ずかしい。段々声が小さくなってしまったがノボリさんはきちんと聞いてくれて、「……左様でございますね!」とさっきまでの冷たい声はどこへやら、ひどく明るい浮かれた声で言ってくれた。
「それではわたくしたちはきっと運命の相手ですね」
「はい!」
絶対そうですなんて笑い合う。彼に出会えたことが幸せでたまらなかった。




end.


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