The decade of love
十年くらい振りに起動したDSのソフト。接触が悪くてなかなかソフトを認識しなかったけれどちゃんとついてくれた。データも飛んでいない。十年も前のハードがきちんと稼働するなんて、データも残っているなんて流石、と笑う。
ソフトは勿論BW。当時はそこまでやる気が無くて放ったらかしていたバトルサブウェイへと向かった。
◆
殿堂入りした旅パではどうにも歯が立たなかったので一旦退いた。つっよ。モブすらも強いとかマジかよこちとら殿堂入りぞ?と思いながら攻略をググる。当時なら攻略本とにらめっこだっただろうに随分と楽な時代になったものだ。
とうの昔に解放されていたジャッジ機能を使いながら厳選して、わざ構成も考えて、組み直したパーティ。
乗ったのはマルチトレインだ。保険を兼ねてトウヤくんの力を借りることにした。トウヤくんがいればある程度安心して進めるから。
トウヤくんのおかげもありあっさりと勝ち進み21戦目に辿り着いた。現れたのは黒衣のトレーナーと白衣のトレーナー。
『わたくし サブウェイマスターの ノボリ と 申します!片側に 控えるは 同じく サブウェイマスターの クダリ です』
表示されたメッセージ。自分のハードで見るのは初めてだ。当時はそこまでやる気が無かった為に、そもそもこんなキャラクターがいるなんて知らなかった。
彼らの存在を知ったのはポケモンレジェンズアルセウス。昔のソフトで出てきたキャラクターがいるとネットニュースで見かけてゲーム内でその片割れの姿を見た私はそのまま恋に落ちた。
彼の境遇を知って同情し、動画サイトで昔の彼を見ては何でもっとやり込まなかったんだろうと後悔した。
皮肉なものだと思う。当時は存在すら知らなかったのに長い時を経て恋に落ちるだなんて。何がそんなにハマったのかわからないけれど。
ともあれ、丁度手持ちのソフトだったこともありゲームを収めていた箱からハードとソフトを引っ張り出した。
そして今、やっと当時の彼に、彼らに会えた。
さあ、予習は完璧だ。彼らに勝とう。と思ったが何故だろうか。Aボタンを押してもメッセージが進まない。
こんなとこでバグるとか勘弁してくれよと連打した。けれど、やはり動かない。
これは再起動コースかやだ本当やだまた20連勝すんのやだと思ったらウィンドウが閉じた。
「……?」
次の台詞が出るかと思いきや動かない。ノボリさん達はじっとしている。…………否、こんなポーズだったか?
現れた時、彼らは片手で帽子の鍔を持ち、反対の手でこちらに向かって指を指していた筈だ。ところが今の彼らは片手で帽子の鍔を持っているのは変わらないがいつの間にか腕を下ろして身体ごと私を見ている。
こんなモーション動画サイトでも見たことが無い。当時にそんな細かいポーズの差分なんて無い筈だ。じゃあ彼らは何故こちらを向いている。
それにこちらもトウヤくんとプレイヤーであるトウコちゃんが映っていた筈だ。なのにどちらもいない。
よくわからない恐怖に飲まれ、電源ボタンを上下する。一旦電源を落とそうと思ったのに画面は消えない。変わらずノボリさんとクダリさんが映っている。
「何これ、何で」
がちがちと何度も電源ボタンを動かした。それでもやっぱり電源は落ちない。ノボリさん達も映ったまま…………?
二人がこちらに近付いているような気がした。気のせい、と思おうとした途端画面にノイズが走る。一瞬ブラックアウトして再度ついた。……ノボリさん達が近付いていた。
最初よりも明らかに近い。そんな場所にキャラクターが出るなんて見たことが無い。とんでもない事が起きていると漸く理解したけど打つ手は無かった。
また、ノイズが走る。現れたのはメッセージウィンドウ。
『やっと あなたさまに お会い出来ました』
『ぼくたち ずっと きみが 来るのを 待ってた』
何を言っているのかわからなかった。何の台詞なのかも。普通なら自己紹介の後はマルチバトルについての話をする筈だ。なのに何故このノボリさんはそれをしない。何故クダリさんがここで喋る。
電源を落とせないものだから怖くなり画面を閉じてしまおうとした。でも何故かそれが出来ない。かなしばりにでもあったように身体が動かなかった。
『所詮 わたくしたちは ただの データに 過ぎません ですが ただの データでも 心 を 持つのですよ』
『例えば きみのことが 好きだ とかね』
ゆっくりとノボリさんとクダリさんが顔を上げる。帽子を少し傾けて、見えた表情は笑顔だった。
「ゃ、っ……!」
またノイズ。直後ずるりと画面から手が出てきた。黒い袖と白い袖のそれらは真っ直ぐに私に伸びる。私の頭を抱えるように後頭部に回され、引っ張られた。向かう先は勿論DSの画面。
「待っ、て、やだ……!」
「やっと、やっとあなたさまに触れられた。……もう離しません」
「これでもう暗闇の中きみを待たなくていい」
メッセージウィンドウじゃなかった。その言葉はきちんと音となり声として私の耳に届いた。わけもわからず画面に引きずり込まれる私。質量差なんてものともせず、画面に飲み込まれていく。
「これからは、ずっと一緒でございます」
「大切にするからね」
喜色に彩られた二人分の声が響いた。
end.
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