Sucreve

Notice me.


「……ちょ、っ!何してんの!?何で!?」
「ですから、手が滑りましたと申し上げました」
「滑ったって、いや、明らかにかけてるよね!?」
「手が滑りました。申し訳ございません」
「嘘でしょ!?棒読みだし全然謝ってないし!」
わー!!とスマホに手を伸ばしたが「まだ熱いので」と手首を掴まれた。誰のせいだと思ってんの!?
「は、なして……っ」
「火傷してしまってはいけませんので」
ノボリさんに掴まれた手首がみしりと軋む。ノボリさんの方を見るとひどく冷たい目をしていた。このまま折られてしまうんじゃないかと思うと何も言えない。
「……ああ、そろそろロールキャベツが温まったのでは?」
「え?……あ、」
キッチンからぐつぐつと鍋が騒いでいるのが聞こえた。ふきこぼれてしまうかもしれないと慌てたらノボリさんが手を離してくれた。スマホ、と思ったけどどうもノボリさんが怖くて手が出せない。今は諦めよう、とキッチンに戻る。
コンロの火を弱めて、蓋を開けようとしたところで気付く。あれ、何で今日ロールキャベツって知ってるんだろう?言った?いや、言ってない。だって朝出る前に「今夜は何がいい?」って聞いても「あなたさまの作るものでしたら何でも」としか言われなかったし、メニューを決めたのは結局夕方だったし。
そうだ、友達との電話の間だった。ふとメニューが決まらないなんて言ったらロールキャベツの話をされたから、それでメニューを決めて。
何で、彼は今夜のメニューを知っているんだろう?
ごくりと息を飲んで、背筋を冷たいものが伝ったと思ったら背後から腕が伸びてきた。二本の腕は私を包むようにきつく巻き付いてきた。
「っ!」
「わたくし、トマト味のロールキャベツは好きですよ」
「…………」
私はまだ鍋の蓋を開けていない。何で、ねぇどうして知っているの。クリームでもコンソメでもなくトマトだって。
「どうかされましたか?」
私が何を思っているのかきっと彼は気付いているのだろう。彼の腕はぎちりと私に絡んだままだった。


end.

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