Sucreve

Notice you.


「………………あー……滑ったの?」
「はい」
きっぱりと言われた。真っ直ぐに澄んだ目にこっちが戸惑ってしまう。以前どこかで人は相手の目を見て嘘がつけないなんて見たことがあるけどそれこそが嘘だなと言えるくらいに真っ直ぐ私の目を見ていた。
「そっか。じゃあ仕方ないね。服汚れてない?ざっとでいいから拭いておいてくれる?」
「……はい」
私があっさり許したからだろう、ノボリさんは少しばかり意外そうな顔をしてカップの傾きを元に戻した。きっと空っぽになっただろうその縁を伝って雫が落ちた。
「っと、お鍋ふいちゃうかも……」
ぐつぐつ聞こえたので慌ててキッチンに戻る。コンロの火を弱めているとノボリさんもキッチンにやってきた。茶色くなったティッシュの塊をゴミ箱に捨てて、カップをシンクに置いてから私に近付く。
「ロールキャベツ、楽しみです」
「そう?」
「はい。あまり食べる機会がございませんので」
「あー、確かにねぇ」
蓋を開けようとしたところで「トマトの煮込みも好きでございます」と言われた。蓋を開ければぐつぐつしている水面の赤さにノボリさんが目を細める。
何でメニューを知っているのなんて、聞くだけ野暮だ。
「あ、チーズ入れよっか」
「それは名案でございますね」
「ねー」
中に包んでもよかったかもなぁと言えばではまた次回にお願い致しますと返される。そんな頻繁に作るのも何だから暫く先になるけれど覚えているかしら。
上に溶けるチーズを散らしてもう一度蓋をする。サラダ出そう、と思ったらノボリさんに背後から抱き締められた。
「……怒っていますか」
「うん?何が?」
「……スマホのことでございます」
「やっちゃったものはしょうがないしねぇ」
文句を言ってあれが無かったことになるわけでもない。いいよ、と向きを変えてノボリさんの背に手を回す。
「……キバナさんよりノボリさんの方が好きだよ」
「当然でございます」
「当然なんだ……」
「はい。あなたさまがわたくしを一番に想っているのは存じております。ですがどうしても抑えきれない想いというのもございます」
「そうね。ノボリさんはそれがちょっと多いのよね」
「…………」
「それだけ私に必死なんだって思ったら嬉しいから、いいよ」
「……ありがとうございます」
わたくしにはあなたさましかおりません、と小さな声で言われたので、「じゃあ新しいスマホ買いに行くのつきあってね」と笑っておいた。

end.

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