Sucreve

Bits and bites.


クダリさんゆで卵の殻剥くの上手そうだなとか何とか。
夢かどうか微妙だけど夢と言い張る。













ゆで卵の殻を剥くのが好きだと言うと、皆意外だといった顔をする。
「嘘やろ。白ボスがそんな細かい仕事出来るとは思えんわ」
そういうのは黒ボスの専売特許やろ、とクラウドが笑う。
「ノボリはむしろ苦手。せっかち」
「…………あー、でもせやな。割に雑というか適当なとこあるもんなあ」
「でしょ?だから僕の方が得意」
「その理屈もようわからんけどな。黒ボスよりマシってだけやろ」
「ぼくの方が器用!」
「ほんまかいな」
まだ疑うクラウドに「本当!」と返すと「ボスがそう言うんならせやろな」と信じているのかいないのかといった笑みを浮かべた。
「それにしても好き、ってんは意外やわ。あれ細かい作業好きな人でもしんどいんちゃうん」
「そうでもないよ」
「そうなん?」
やったことないからわからんわぁ、とクラウドは不思議そうな顔をする。楽しいんだよ、あれ。
硬い殻に少しずつ罅を入れて、中の柔らかな白身を傷つけないようにゆっくりと剥がす。時折薄い膜が残ってしまうのを爪を立てないように指の腹で取り除く。必要に応じて流水に当てたり、至近距離で凝視したりして丁寧に丁寧に全て剥がして現れるつるりとした表面を撫でるのが何より嬉しいんだ。
こんなに根気のいる作業、ノボリには絶対出来ない。だって、ノボリは暴走しちゃうから。
あの子に対してもそう。好きって決めたら真っ直ぐ行っちゃう。本当は違うんだよ。ゆっくりと彼女が逃げられないように周りを固めて、じっくりと彼女の中にぼくたちの存在を刷り込んでいくんだ。それが正解なのに何でああも急いじゃうんだろう。全速前進って言ってもちゃんとルートを見て速度の調整をしなきゃ脱線しちゃう。
だから急ぎたい気持ちを抑えて、じっくり、ゆっくり進めないと。きみが壊れちゃったら元も子もないでしょ。
「ボスー、お話し中すみません書類にサインください」
そう言いながらやって来たのはぼくたちが片想いしている子だった。バトルはあんまり得意じゃないけど書類仕事はとても得意。作成も整理も。そういう黙々とした作業が好きらしい。だから必然バトルの話はしづらい。本人が興味無いのに進めるわけにもいかない。
「何の書類?」
差し出された書類を読むより先に彼女が「この間あったイベントの予算なんですけど」と要約してくれる。読む手間を省いてくれる辺りもいいなと思う。
だからぼくもノボリも彼女のことを気に入ってる。
ぼくはゆっくり周りを埋めていきたいのにノボリはせっかちだから枷や檻やなんかを用意してしまう。それで嫌われたらもうどうしようもないっていうのに。
「……うん、おっけー。はいどうぞ」
「ありがとうございます」
サインした書類を渡すと彼女はにこにこ去って行く。ノボリの気持ちもわかる。うかうかしてたら彼女がいなくなってしまうんじゃないか、だから早いとこ捕まえなきゃって。
だけど捕まえるだけじゃダメ。彼女が笑っててくれなきゃぼくは嫌。それはノボリも同じはずなのに。
(……あ、ノボリあの子に話しかけてる)
お願いだから暴走しないでね。そんな祈りを込めて二人を見つめる。
彼女は何やら首を振って、ノボリがしょんぼりと肩を落とした。何を言ったんだろう。変な事言ってないといいけど。
とはいえノボリが失敗したならぼくが成功すればいいだけの話。だってぼくたち二両編成。
いつかあの子を手に入れた時の事を想像して、頬が緩む。その日はきっと、そう遠くない。




end,



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