chapter1 02

あの乱闘騒ぎから一夜が明ける。
酒場は何事もなかったかのようにいつもの風景を取り戻していた。テーブルが一つだけ減っていること以外に、騒ぎの名残はなくなっている。


「……来たわね、こっちよシルフさーん!」


カウンターの奥から大人の魅力振りまく女性がこちらに手を振っている。この人が酒場の店主ルイーダである。
宿屋に一泊したシルフは、この女店主から謎の呼び出しを受けた。


「何かご用でしょうか」


わざわざ呼び出されるような心当たりはない――いや、なくはなかった。乱闘騒ぎのことが頭を掠めるが、それはそれで一体何を言われるのか全く検討がつかない。


「一つ頼みがあるのよ。あなた、パーティを組んでみる気はない?」


「パーティですか……」


何を言われるのかと思いきや、全くもって予想外だった。いや、よくよく考えてみれば、この酒場では冒険の仲間の斡旋も行っている。一人で旅をしているシルフに声がかかるのも不思議ではない。


「もちろん無理にとは言わないわ。ただ……条件に合う僧侶さんがなかなかいなくてね、困ってたところなのよね」


その“条件”とやらはシルフであればクリアするものなのだろうか。まぁ合わなければパーティを解散するだけだ。そう思い、シルフは二つ返事で頷いた。


「行く当てもありませんし、別に構いませんよ」


「あら本当? 助かるわ〜。それじゃ早速お仲間を紹介するわね。……アイク! ご希望の僧侶が見つかったわよ、ちょっとこっちにいらっしゃい」


シルフ同様に呼び出されてやってきた人物に、シルフは「あっ」と声を上げる。向こうもシルフと同じようなことを思ったのだろう、虚をつかれたような表情でシルフを見ている。


「アイク、こちら僧侶のシルフさん。シルフさん、こちらは旅芸人のアイクよ。二人とも仲良く黒騎士を倒してくるのよ〜」


いつの間にか黒騎士を倒してくることになっていた。もしかしなくても、ルイーダの言う“条件”とは、黒騎士退治をしてくれる仲間のことか。悟った頃にはすでに、昨日の紫髪の青年と一緒に黒騎士退治をしてくることになっていたのだった。

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