005

夜。フィオルはベッドに横になり、今日という日を振り返る。


(長い……本当に長い一日だった……)


ペレジアから逃亡した先で出会ったイーリスの三人組と出会い、町の襲撃に遭い、自警団に“保護”という形で身を置くことにもなった。明日からはイーリスの王都に向けて出発するらしい。


(ペレジアとは別の意味で危険を感じなくはないけれど……)


イーリスの中心へと近づくにつれ、ペレジアの脅威は減るだろう。ただ、フィオル自身の出自が出自なので、気を抜くわけにはいかないという難点もある。


(知らず知らずのうちにペレジアでの習慣が出ていたらどうしよう)


国が違えば文化の違いもあるはず。


(服も……動きやすいものにしておいて良かった……)


王族用の豪華すぎる衣装は走りにくい。今の服は、ペレジアを脱出する際に逃げやすいよう着替えたのだ。
ペレジアでは露出の多い服が一般的だが、イーリスはペレジアほど大胆に肌を見せる服を着ている人はあまりいないらしい。


(この後は……)


言われるがままイーリスの王都へ行くことになってしまったが、王都へ着いた後、その先はどうすれば良いのだろう。イーリスの王都へ行ったところで王女という身分すら失ってしまったフィオルはもう何も持っていない。
かと言って、ペレジアに戻れば殺されるだけ。
もっと強くなりたかった。


(そうよ、私は力をつけたい)


強くなれば、逃げ回らずにすむ。自分の身を守れる。
あの男を――殺せる。


「待っていなさい……」


低く呪うような声でフィオルはその名を呟く。
ギャンレル。王家の人間――フィオルの家族を一人残らず殺し、王座に収まった残虐な男。
ふつふつと怒りが湧き上がる。
あの男を殺さねば……家族は報われず、フィオルは命を狙われ続けるのだ。


(そのためなら、私は何だってやる)


固く決意し、フィオルは瞳を閉じた。
翌日、クロム達に言うことがある。
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