006

――お前は、巫女として生き、巫女として死ぬのだ。


呪術師に告げられた言葉は、フィオルの自由を一切許さないものだった。フィオルはペレジアの王女だったが、その役割はギムレー教の巫女として儀式に殉ずることだ。すなわち、儀式でしか死が認められず、逆に言えば儀式までの生は保証されたも同然。
王城の片隅で半ば閉じ込められるように暮らし、呪詛のような言葉をひたすら耳に注がれて、将来を夢見ることは出来なかったものの、ただ漫然と日々を過ごすことは王女の身分が許さない。自分の役に立つかどうかも分からない教養を叩き込まれ、しかしその分、欲しいものがあれば比較的簡単に与えられていたように思う。巫女は儀式に欠かせない存在であるためか、周りもチヤホヤと甘やかした。当時のフィオルは、儀式で巫女として死ななければならなかったが、あの頃の自分は確かに“王女”で、確約された幸せを疑うことはなかった。
そのことに違和感を感じたのは、いつのことだったか。疑問を抱き始め、しかしそれを口にすることは憚れていた時、違和感は決定的なものとなり、強い拒絶へと変わったのだ。


――ギムレー様を崇めれば、一族の繁栄は約束されたも同然。きっと、弟君も立派な王者になられましょう――


(嘘吐き。だって、弟は死んでしまった)


弟だけではない。父も母も、フィオルの家族と呼べる人は全てこの世からいなくなってしまった。……殺されたからだ。
暴動を前に、思想など何の役にも立たなかった。
だから、ギムレー教には頼らない。


(私は……自分の力で生きてみせる)


もう、宗教の勝手な都合で生死を決められるなんて真っ平ごめんだ。
家族の仇を取る。ペレジア王家を根絶やしにし、その座に収まった、残酷な男――ギャンレルを倒す。
それが、今のフィオルの生き甲斐だった。





ふと、目を覚ました時、窓の隙間から光が溢れるように差し込んでいるのが見えた。


(……朝?)


起き上がると、何となくだるかった。頭が鈍く痛む。夜中に考えごとをしていて、あまり眠ることが出来なかったせいだ。
あの男のことを考えて、安眠などできるはずもなかった。


(倒してみせるわ、必ず)


あの男を殺す。
そのためなら、何だって利用してやる。
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