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轟くんの何か言いたげな顔は腑に落ちなかったけれど、これ以上聞いても教えてくれなさそうなので話を授業参観に戻す。

「轟くん家はお姉さんが来るのかあ、良かった。」

「前田も姉さんいるだろ。」

「う〜ん……祐佳のお姉ちゃんさ、結婚して子どももいるから、平日に妹の授業参観に来て欲しいって言いづらくて……忙しいだろうし……」

「でも、聞いてみないと分かんねえだろ。」

 轟くんに的確にそう言われて「確かに…」としか言えなかった。

人の気持ちを勝手に考えて、自分の中で自己解決して、飲み込んでしまうのは私の悪い癖だと思う。でも何だかいつも、人の本音に触れる事が少し怖くて、そうしてしまうのが癖になっていた。


そんな事を考えていたら、ふと病室で鞄の奥に追いやったプリントを思い出す。あれも結局は、その悪い癖のせいだ。
私は言えなかったけど、同じ状況の轟くんは、授業参観の事をお母さんに伝えたのかなと、つい気になってしまった。

「……今日ね、一応授業参観のプリント持ってきたんだけど、やっぱり入院してて、来たくても来られないママに見せるのもなあって、なんか勝手に考えちゃって。結局…見せられなかったんだけど、轟くんはお母さんに授業参観のこと話した?」

「……………一応、伝えた。」

 
そうか。轟くんはちゃんと伝えられたんだ。

その返事を聞いて、迷った末に勝手に自己解決をして、逃げ出したような自分の心の弱さに消沈とする。
みっともない自分が恥ずかしくて、なんだか彼の顔が見られなくなって「そっか!やっぱり轟くんはすごいなあ。」なんて言いながら、視線を地面にずらした時、再び轟くんが話し始めた。


「俺も、授業参観のこと言われた日に勢いで病院来て、お母さんに言うタイミング探ってた。言ってからも、最初から行けないって分かってるのに、知らせないほうがよかったんじゃねえかとも思った。

でも姉さんに、子どもが自分のために精一杯考えたことを喜ばない親はいないって言われて、ハッとした。だから、前田の親もそうなんじゃねえか。」



 彼のその言葉に立ち止まり顔を上げると、隣を歩く轟くんも足を止める。



私と同じように彼自身が葛藤したその胸の内も、お姉さんにかけてもらった言葉も、弱虫な私に深く深く突き刺さる。

轟くんのその真っ直ぐな瞳も、優しさも、どうしていつも、私の心をこうも掬い上げてくれるんだろうか。


「……………轟くんごめん!」

「………?」


両手をぎゅっと握り締め、立ち止まっていた身体を轟くんの方へ向ける。零れそうなる涙を我慢して、不思議そうな顔をしている彼に私は頭を下げた。

「やっぱり、ママに授業参観のこと伝えてくる…!祐佳のために、一緒に帰る約束してくれてたのに勝手で本当にごめん…!」

先週、轟くんは私のために一緒に帰ることを提案してくれたのに、それを私の方から無下にすることが、どれほど失礼なことなのか重々理解している。


でも、今じゃ無いと、きっとダメなのだ。弱虫の私の心を、彼の言葉が支えてくれている今じゃないと。


「前田、頭上げろ。」


頭の上から少し困ったような彼の声が降り注ぎ、言われたとおり頭を上げる。すると轟くんはやっぱり、少し困ったような顔をしていて「そんなに謝らなくていい。」と言ってくれた。



「………頑張れ。」



そして彼は一言、そう言って私の頭にぽんっと骨張った大きな手を置く。
たった一言、たった一つの行動、けれどその全てが私の背中を大きく押してくれる。
全身の熱が胸に集まるように暖かく、どこか締め付けられたような感覚になった。

「うん!頑張る……!」

私はそう大きく頷き、「轟くんありがとう!」とお礼を伝えて、再び病院へと向かうために駆け出した。


早くしなきゃ、彼の言葉と頭に置かれた暖かい手の感覚が、弱虫な私を支えてくれるうちに。





2021/06