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 それから一週間、沖矢昴もとい赤井秀一は面白半分で片桐夕について資料を集めた。
「ほう、ロンドンか」
 驚いたことに彼女の出身は日本ではなくイギリスのロンドンだった。そういえばコナンが片桐は博識でミステリー本についての知識も豊富、シャーロック・ホームズの話も時たますると言っていたし彼女がイギリス出身だとしても何ら違和感なかった。
 (顔立ちはまあ日本人寄りだな…日系イギリス人というわけか)いつも笑顔を絶やさないとのことであったが、写真を見る限りこれは笑顔というよりも人を小馬鹿にした笑みではないだろうか。見る人が見ればちょっぴり腹が立ちそうだ。内心くすりと笑って、赤井は画面をスクロールする。
「随分あちこち飛び回っているんだな…」
 ふと引っかかったのは渡航歴だった。イギリスの大学を卒業してからは、仕事なのか何なのか知らないがヨーロッパにアメリカ、中東など文字通り世界を股にかけている。
 もう一つ気になるところがある。
 (両親は交通事故……親戚もいないのか)彼女の親族欄が空欄になっている。

『いっつも自由で、楽しそうなんだ』

「………、」
 コナンが彼女を紹介する際に言った言葉を、思い出す。
 写真越しでしかまだ彼女と対面していないが、こんな余裕そうな笑みを浮かべる彼女にも心の空白があるというのだろうか。
 あまり、踏み込むべきではなかったかもしれない。
「…………………………」
 ほんの僅かの違和感を覚えたものの、取り敢えず今日読むのはやめようと赤井は思った。コナンにはあらましの経歴を伝えておけば良い。
 赤井は新しいUSBを差し込み、作業を始めた。