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「…お前は大丈夫なのか」
「ああうん、平気さ。庇ってもらって悪かったね」
「いや…」
 ぎこちなさが大々的に出てしまっている。男子高校生か俺は、と自らにツッコミを入れて落ち着けと念じた。
「キミはどこか痛いところはないのかい」
「あんなもん平気だ」
 そう告げ、落ちてきたものを拾えば片桐もそれに倣った。
 とんだ災難だと内心悪態をついていれば、ふと見覚えのある紙面に手が止まった。そう、これはいつかの時の受験票だった。「何でこんなもんが…」そう呟けば「ああそれかい」と片桐が答えた。
「どうやらそれは控えらしくてね、まあ本紙が紛失するなんてこと滅多にないことだし、古い控えはいつの間にかここに流れ着いたんだろう」
「ほんっとにいい加減だな…」
「まあ何年も前のことだし、今更受験票なんて気にすることないよ」
「お前も受験したんだよな?」
 当たり前のことを訊けば、当然のように片桐は頷いた。
「まあ私はイギリスのイイ大学を出てるから勉強は余裕だったよ」
「お前が勉強できるって意外だよな」
「ちなみに六ヶ国語くらい話せるよ」
「嘘だろ!?」
 人は見かけによらないというのは本当らしい。松田も決して勉強ができないわけではなかったが、警察学校時代を共にした悪友の一人と比べたら劣る。あれはいつも主席で、いつでも完璧だった。何だろう、思えば彼と片桐は犬猿の仲のようだが、二人はどことなく似ている箇所がある。(だからこそ仲悪いのか…)
「ほら松田クン、上げたまえ。私じゃ届かないよ」
「脚立使えよ」
「身長が高い人間が傍にいて利用しないわけないだろう?」
 こういう減らず口なところも、どこか似ている。
「気をつけなよ」
「わぁーってるよ」
 全ての荷物を置いて、漸く資料室を出た。「もうここには来んなよ、また落ちてきても助けてやんねえから」「同じ轍は踏まないよ」「どうだか」大体のことは完璧にこなす彼女だが、変なところで詰めが甘いことがある。だからこうして、なんだかんだ彼女の背を追ってしまう。同じ轍を踏んでいるのは松田のほうだった。