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 解体作業を始めてから数分が経過した。
「…なあ、片桐」
 ここで松田は、ずっと抱えていたある疑問を口に出すことにした。何でこんな状況でなんだと自分でも不思議に思うが、なんとなく、今言いたくなったのだ。
「お前、生まれはイギリスなんだよな?」
 声を潜めてしまうのは何故か。松田は答えを出せなかった。「どうかな?」片桐は相変わらずの笑みを貼り付けて、曖昧な返答をした。
「何で日本警察に入ったんだ?」
「言っただろう?警視正の寺尾サンにスカウトされたからさ」
「過去渡航歴が多いのは何でだ?」
「私が六カ国語話せるのは知っているだろう?以前は海外を転々として仕事をしていたのさ」
 あくまでも白を切るらしい。回りくどいことは性に合わない。松田は、本題を切り出すことにした。

「“sis”って、知ってるだろ」

 片桐は沈黙する。この状況でそれはすなわち、肯定を意味する。「片桐、お前は…」問いただそうとしたその時だった。

「勇敢なる警察官よ」

 三年前に触れたあの言葉が、二人の鼓膜に届いた。
 やはりあの時同様、爆発の三秒前にもう一つの爆弾の在り処が表示されるらしい。「江戸川クン、キミ、大丈夫かい?」彼の精神状態が心配されるが、当の本人は「大丈夫だよ!」とケロリとしている。
「つまり、爆弾が爆発する前に謎を解いたら良いんだよね?」
「簡単に言ってんじゃねえよ…」
「ごめんなさい…でも平気だよ!なんていったってここには夕さんと松田刑事がいるんだから!」
 そんなことを言われては黙るしかない。ぐう、と唸る己に片桐は笑った。
「まあとにかく三秒前まで待とう」
 あの時とまったく同じ言葉を、片桐は口にした。