純黒の悪夢/中編

 事が大きく動いたのはそれから暫くしてのことだった。東都水族館に併設されている大観覧車が、一時的に使用不可になったのだ。背後には公安がいた。先方は間違いなく、キュラソーの記憶の糸口を掴んだのだろう。
 そしてその観覧車の上で何故か、安室もとい降谷が誰かと殴り合っているとコナンから聞かされた。
「いや何でだよ」
 思わずそう呟いてしまったのは仕方のないことであった。
 ともかく行かない手はなかった。そこに必ず苗字は来る。松田は確信していた。
 あれから彼女とは連絡が取れなくなった。何も知らない筈の萩原も何か違和感を覚えたのだろう、その旨を松田に問いかけてきた。しかしながら松田自身も説明できるほど詳しいわけではない。はぐらかすしかできなかった。案の定納得していなかったが松田もよくは知らないことを悟って、萩原は大人しく引き下がった。それになんだか、悔しさに似た気持ちを抱いた。
 苗字は今、どうしているのだろう。
「…行くしかねえな」
 行けば分かる。彼女が今何をし、何を考えているのか。
 観覧車前は人でごった返していた。そう易々と近づけそうになかったが、隙を見てスタッフルームを介して中に侵入した。近くにはコナンがいた。相変わらず行動が小学一年生のそれとは思えない。
「松田刑事!」
「あいつは?」
「上でやりあってる!それより爆弾があるんだ!」
「なに?」
 組織はキュラソーを見限り、観覧車ごと爆発させるつもりなのか?そんなことをすれば周囲にいる一般人が無事では済まない。一体何人の犠牲者が出るのか、計り知れない。
「お前は降谷を止めに行け!爆弾は俺に任せろ」
「うん!」
 力強く頷いて駆け出したコナンの背を見送り、松田は爆弾と向き直る。電力供給が停止している所為か周囲は暗い。手許が見ずらいため、爆弾解体は難航を極めた。
 しかし――。

「灯りが必要かい?」

 目を刺すような一筋の光と、ずっと聞きたかった声。松田は作業の手を止めて彼女を見つめた。
「名前…!」
 苗字は薄氷の瞳を、ゆっくりと松田に向けた。

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