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 さて、十代とユベルに出会って暫く。最初は子守りのようにも感じていたが、なんだかんだでまともな友達というものを初めて得た名前は彼らをそれなりに大事にしていた。
「えっ名前、デュエルやったことねえの?」
「うん。てかデッキも持ってないし」
《何で?十代から誘われた時できないじゃん》
「お前の基準は全部十代かよ」
《とーぜん》
 今更何を、とばかりの顔をするユベルを放置し「じゃあおれの貸してやるよ!」と十代が言う。その歳で中々のスルースキルである。
「でもやり方知らないし」
「大丈夫だって。おれたちが教えてやるから。な、ユベル」
《まあ十代がそう言うなら》
 かくしてデッキ構成、ルール等、彼らからの指南が始まった。技やら融合やらを全て丁寧に説明していく十代に、この子は本当にデュエルが好きなんだなあと感慨深くなる。名前は今までの人生の中で何かに夢中になったことがない。だから、彼がここまで熱心にデュエルを勧める姿を非常に興味深く感じた。
「ユベルもデュエル好きなの?」
《僕は十代のデュエルが好きだ》
「名前もきっと好きになれるよ!」
 屈託ない笑顔でそう言われると、否定できない。彼の無邪気なそれはとても眩しかった。
 ――そんなある日のことである。
「お前!俺とデュエルで勝負しろ」
「…いや、それはちょっと…」
「名前!受けてやれよ!お前の力を見せてやれ!」
《十代が応援してくれてるんだよ。絶対勝て》
「なんて無茶な」
 以前飛び蹴りを食らわせたガキ大将が、腕っぷしでは勝てないと判断しデュエルでの決闘を申し込んできた。まだ未熟な名前が誰かとデュエルで対戦などできるわけがない。すぐさま断ろうとしたが味方である筈の十代とユベルに退路を塞がれてしまった。そして承諾していないにも関わらず何故かガキ大将とのデュエルが決定してしまう。この世は理不尽である。
「名前、名前」
「なに?」
「これ」
 軽く現実逃避をしていると十代が一枚のカードを差し出した。
 ユベルのカードだ。
《十代!?》
「おれのユベル貸すから安心しろ!ユベルはつえーぞ!」
「いや、でも…」
「ユベル、名前を助けてやってくれ!」
《ま、まあ十代がそう言うなら……おい名前、ヘマするなよ》
「だから何でわたしの意見はガン無視なの?」
 そんなわけでデュエルが始まった。一進一退の攻防が続き、シーソーゲームでライフポイントが削られてゆく。ガキ大将が一般的に強いのか弱いのかも分からないが、とにかく無我夢中で戦った。
 結果、なんとか勝利することができた。
「やったじゃん名前!ユベルもありがとな!」
《このくらい当然だよ》
 ユベルからのお咎めが特にないことから使いどころは間違っていなかったらしい。
「あんた本当に強かったんだ。びっくりした」
《君、一体僕の何を見てきたの?》
 相変わらず感じの悪い言い方だが、子供のように得意げな顔だったので微笑ましく思えた。
 以降、名前は不本意ながら彼らと更に心を通わせていく。それは心地の良いものだった――。


 二人と出会って幾ばく。完全に打ち解けていた頃、ある報せが名前に届く。
 引っ越し、というやつだった。
 名前はこの日、十代とユベルにそのことを伝えようと彼らの家にやって来た。相変わらず彼の両親は留守で、十代がキッチンに飲み物を取りに行った。
《なんか元気ないね》
 あのデュエル以降心を許したらしいユベルが名前の些細な変化に気づく。こういう勘の鋭さはやはり人間離れしている。名前は十代が来るのを待ってから話そうと思っていたが案外心配そうな表情を見せたユベルに対し、口が滑った。
「引っ越すことになった」
《は?》
「もう一緒にいられない」
 その時ユベルは間の抜けた顔をした。彼でもこういう顔をするんだなとまじまじ見ていると、刹那には怒りに満ちていた。
《ふ、ふざけるな!僕らを裏切るのか!?》
「何でそこで裏切るになるんだよ」
《だって…!だって!!》
「…落ち着け。子供の力じゃどうしようもないことがあるんだよ」
《何でそんなに冷静なんだよ!》
 名前は彼が“十代を”ではなく“僕らを”と言ったことに対し驚いていた。彼は本当に、名前を友人として認めていたのだ。そのことに今更気づく。「…あのさ」それを分かった上で、名前は続ける。
「今はちょっと離れるだけ。いつかまた帰ってくるから」
《それっていつ?》
「いつかは分からない。でもきっと、融通が利く歳になったら自分の力で帰ってくるよ」
 ユベルは納得していないようだった。
「だからさ」
 名前は彼の手を握る。握ったつもりで、いた。本当は感触なんてない。だがその時、二人は手を繋いでいた。
「十代のこと、頼むよ」
《…!》
「あいつチビでガキだから他の子にイジメられやすいかも。だから、わたしがいない間はあんたがあいつを守ってやってよ」
《そんなの…君に言われなくてもやってる……ずっと…》
「そっか。わたし、余計なお世話だったな」