勝負はいつでも全力で


「せいやァァァァァ!!!」

 ドゴォォォッ!!とけたたましい音を立ててボールがゴールに突っ込んだ――軌跡でさえ、目測で確認できなかった。というか、ゴールを通り越したボールは黒い点となり、やがて消えた。
「ボールは!?」
「見ていなかったのか。あっちだ」
「うわぁ俺の視力じゃ見えない!!ちゃんと原形留めてるよね!?」
 光の彼方となった行方知れずのボールに思いを馳せ、先程名乗ってくれた少年・江戸川コナンをそっと見やる。
「ど……どうなってんだ…この女……」
 その気持ちは充分理解できる。なんていったってネットが破れていることもそうだが、速すぎてボールが見えないなんてそんな馬鹿なことはない。
「よし、じゃあ帰るか」
「えええ帰るの!?」
 コナンは驚いて彼女の服の裾を引っ張ったが、当の彼女は冷たくその手を払った。
「当たり前だ。どう考えても私の勝ちだろ」
「勝ちとかそういうレベルじゃないから!お姉さん何者なの!?」
 視線に敵意が混じっている。どうやらこの少年、完全に河南を怪しんでいるようだ。なんて余計なことをしてくれたんだと、諸伏はこっそり頭を抱えた。
「私は一人類だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そういうことを訊いてるんじゃねーよ!」
 最早子供キャラが崩壊している。
「えーと…ごめんなコナンくん。河南はさ、こういう奴だから…」
「じゃあこの人の正体教えてよ」
 まずい、完全に疑われている。安室透と親しい彼に本当のことを打ち明けるわけにはいかない。
「河南は俺の身内なんだよ。ちょっと力が強い、な」
「フーン。ボク河南さんもだけどお兄さんのことも知りたいなーっ」
 無害な天使を装う笑顔に思わず脱帽だ。彼は演技が上手いと思う。
「だったら私ともう一度勝負するか」
「何でお姉さんと!?ボクもうお姉さんと勝負するの絶対嫌だから!!」
 余程嫌われてしまったらしい。
「お前な…子供相手なんだからちょっとは手加減しろよ」
「馬鹿か貴様は。誰が相手だろうと勝負を挑まれたからには負ける気はしない」
 なんて奴だ。あっけらかんとした河南の態度に口をポカンと開ければ、コナンも己と同じような顔をした。思うことは、同じらしい。
 ――こいつ、絶対冗談通じないタイプだ。