理解できねぇもんは理解できねぇんだよ二度も言わせんな

 安室の目は肉食獣のそれだ。ヤバイ、と本能的に感じ取る。
「こんにちは河南さん」
「ああ大串か」
「安室です」
「やはりカレーにはブドウを入れるべきだと思うが、お前はどうだ」
「突然ですね」
 彼女の意味不明な質問に笑顔を絶やすことなく返答する安室は流石としか言いようがない。コナンなら我慢できずにツッコミを入れる。
 「ところで」安室の標的が河南から沖矢に変わる。
「お二人は知り合いで?」
「いいえ、初対面です。彼女が僕と誰かを勘違いしているんですよ」
「私の直感に間違いなどある筈がない。大人しくタマ取られる覚悟を決めるんだな」
「こんなところでそんな物騒なこと言うなって!」
 慌てるヒカルとは対象的に、何故か沖矢は笑みを深くするだけだった。一体何がそんなにおかしいのだろう。不思議に思ったのはコナンだけでなく河南も同じだったようで、小首をかしげた。少し可愛いと思ったのは内緒だ。
「…まあ良いでしょう。このあともまだ仕事が残ってますし、今日はこのへんで」
「あ…うん、バイバイ安室さん」
「さようならコナンくん、河南さん…あと」
 ニヤリ、先程とは違う微笑を湛える安室。
「さようなら、“ヒカル”さん」
「おお、さよーなら」
 安室の静かな威嚇を諸共せず、ヒカルはニッと笑って手を挙げた。その仕草に安室が僅かに目を細めたものの、コナンは詮索しなかった。なんとなく、今この場で彼らの空気を割ってはいけない気がしたのだ。「あの二人って知り合い?」「さぁな」陰でこっそり河南に訊いたが満足な返事は得られなかった。
「私たちもブドウを買って帰るか」
「絶対カレーには入れないからな!?」
「しつこい」
「俺のせりふだからそれェェェ!!」
 そんなやり取りをしながら、二人はコナンたちを気にすることなく去って行った。
「……変な人」
「――相変わらずだ」
「え?」
 今の言葉の意味は……。沖矢を見上げてみたがニヒルな笑みしか窺えず、結局コナンは答えに辿り着くことができなかった。