思い出ってのは大抵美化されるもの

 萩原研二と河南の出会いは唐突であった。本当に、不意打ちだった。
 まさか頭を踏まれて登場するとは、誰も想像できないだろう。
「あ、それ俺もだわ」
「えっ諸伏もそうだったの?」
「おう」
 まさかの同じ出会いをやっていたことに驚く。諸伏も同じ心象だったようで、「あいつは人の頭踏まねえと登場できねえのか」と呆れていた。
 ――当時、萩原はあるマンションに仕掛けられた爆弾の解体をしていた。爆弾を止められたと思って、一息つくために煙草に火を点ける。その際松田と電話していた。その時だった。
「ぶべッ!?」
 頭にものすごい重圧がかかった。最初、何が起こったのかまったく分からなかった。どうしたんだ、と電話越しの松田の声に一体何が落ちてきたんだと混乱し、状況把握の為に頭を上げようとした。
「何だここは」
 しかしその前に女の声が萩原の耳に届いた。
「ちょっ…ちょっと君!」
「あ?貴様、私の下で何をしている」
「いやあんたが俺の上で何やってんの!?」
 そう言えば、女は「ああ…」と得心したように、萩原の上から降り立った。「特に何もしていない」やがて、おもむろに口を開くとそんなことを述べた。
 女は奇妙な姿をしていた。黒外套の隙間から見えるのは着物。そして腰に差された刀。足元は足袋に草履。明らかに時代錯誤の異常な服装だ。
「えっと…誰?」
「人の名を訊く時はまず自分からだろう。貴様から名乗れ」
 なんて不遜な態度なのだ。しかしそれを指摘するだけの勇気はないので素直に名乗った。
「それで君は…」
 ――ピッ。
 萩原の声を遮った機械音。それは紛れもなく、先程解体が完了した筈の爆弾から聞こえてきた。
「なにっ…!?」
 松田が何かを言っているが、それに答える暇はなかった。とにかく逃げなければ。残り六秒、五――。
「爆弾か」
 この場でおかしなほどに冷静な声が響いた。着物の女は、どうしてかこの状況で微動だにしなかった。「何やってんだッ!!」思わず怒鳴れば、どういうことなのか女が爆弾を持った。
「爆風が来ないところにこいつを投げれば良い」

 ――は?

 何を言ってるんだこいつは…と普段は女の子に対して絶対抱かない感情が芽生える。
 次の瞬間「ほあちゃァァァァァァ!!」という叫び声と共に爆弾が空に舞った。直後、凄まじい爆発音と爆風。
 概して何が起こったのか分からなかった。ただ萩原の視界に映ったのは、素晴らしいモーションで爆弾をブン投げた女の姿だけだった。