思い出ってのは大抵美化されるもの

「馬鹿なのかお前は!?てか萩原!!お前も止めろよ!!!」
 その後現場にいた全員の無事が確認され、萩原は女と共に松田のお叱りを受けていた。
「おい、私はこいつらを救ったのに何故怒られなければならないんだ」
「お前どんだけ危険なことしたのか分かってんのか!」
「うるさい奴だ。近づかないでくれ、耳が潰れる」
「萩原ァ!!何なんだこいつは!何で現場にいた?!」
「俺もよく分かんないんだって…」
 一応一連の流れを説明したが、案の定松田は“なに言ってんだオマエ”という顔をした。嘘ではない、断じて嘘ではないと言葉を重ねると「お前がそんなアホみたいな嘘吐くとは思わねえけどよ…」と続けた。
「それにしたって意味分かんねーよ。何なんだよお前」
「何で一々説明しなければならんのだ。大体、その前に私の頭を殴ったことについて詫びろ。でなければ私にも一発殴らせろ」
「いやそれこそ何でだよ!!」
 (この二人、意外とテンポ良いな)ちょっとした現実逃避。「おい萩原、お前今変なこと考えたな?」しかし親友には気づかれてしまった。
「はぁ……まあ、サンキュな」
「?」
「この馬鹿を助けてくれて」
 トーンを落として礼を言った松田に、罪悪感を抱く。もしあの場に彼女が現れなければ、萩原は確実に死んでいた。防護服を着ていなかったからだ。生身で爆弾の衝撃を浴びれば死ぬ。そのくらいは分かっていた。だが油断していた。解除できるという、過信。または慢心。仕事上、絶対に抱いてはいけない感情だ。
「…俺からも……ありがとう」
「別に貴様を助けたつもりはない」
「言うと思った!!」
「だがまあ、礼は受け取ってやる」
 ――なんだそのツンデレは。
 不覚にも可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
「あ、ていうかさ、君の名前まだ聞いてないんだけど……」
 忽然。
 または、唐突。
 或いは一瞬き。
 音もなく彼女が消えた。
「は、」
 萩原だけでない、松田も、ぽかんと口を開けて先程まで彼女が立っていた場所を見つめる。
「な…あいつは…?」
「きえ、た?え?何なの、あの子」
 それから暫く、萩原たちが彼女と再会することはなかった。