バカでも可愛ければすべて許される

 その日、安室透は銀行強盗に出くわしていた。江戸川コナン、沖矢昴と一緒に。コナンはともかく何でこいつも一緒なんだと舌打ちしたくなったが、今は安室の姿なので堪える。
 そんなことより今は銀行強盗だ。なんとか隙を衝いて制圧できないだろうか。思考を巡らし、打開策を考える。おそらく外では既に警察が待機しているだろうし、突入さえできればこちらのものだ。
 そんな折であった。――ピロロ〜ン、と軽快な音が鳴った。誰かの携帯電話だろう。ここで犯人たちを刺激するのは得策ではない。案の定、「誰だ今の音はァ!」と大袈裟なまでに声を張り上げて犯人が銃口を人質たちに向けた。
「何だ…ああ今、ちょっと銀行強盗に遭っててな。大丈夫だ、五時には帰る。ガン○ム観たいし」
 え?――安室は困惑した。こんな状況で、電話に出られる度胸と、絶対に家に帰れると信じているその心。一体誰だと視線を彷徨わせれば、眼光鋭い女が電話に向かって話していた。他の人間とは雰囲気がちょっと違う。
「おいテメェ!なに呑気に電話してんだコラ!ブッ殺――」
「うるさい」
 刹那、犯人の一人が吹っ飛んだ。
「電話中に話しかけるなんて失礼な奴だ、常識というものを知らんのか」
「いや貴女に言われたくないと思いますけど!?」
 思わずつっこんでしまった。しかしそんなツッコミなど聞こえていないのか、女は先程の犯人が持っていた銃を手に取った。「ふむ」銃口を犯人一味に向け――引き金を引いた。
「「「ぎゃああああああ!?」」」
「上手く当たらんな」
 ガシャン!パリンパリーン!!机や照明、壁、天井、様々な場所に銃弾がめり込む。最早どちらが犯人か分からなくなってくる始末だ。
「な、何なんだあの人…!」
「…僕も同じ気持ちだよ…」
 コナンの当惑に同意する。と同時に「突入!」と外から声が聞こえた。警察だ、助かった。早くこの非常識人から解放してくれ。
 機動隊の面々が銀行内に入ってくる。人質たちは皆一様に安堵していた。結果的に無傷である彼らに安室もホッと息をつく。しかし、そんな彼らとはまったく違い、例の女はすたすたと出口に歩いていく。本当にさっさと帰るらしい。(逃がすか!)あんな危険人物を易々と帰すわけにはいかない。
「待ってくだ…」
「河南!?」
 懐かしい声に遮られた。
「なんだ貴様か。どうした、お前も金を降ろしにきたのか」
「いやそんなわけねえだろ!事件解決しに来た以外にねえだろ!!」
「何を言っている。銀行は金を出し入れする場所だぞ。そんなことも知らんのか」
「知ってるから!!」
「松田、さっきから何喚いて…って河南ちゃん!?」
 松田と萩原である。
 (え、ちょっと待て二人はこの女を知っているのか?この滅茶苦茶すぎる女を?最早お前が犯人扱いされても仕方ないと言わんばかりのこの女を…??)
 安室は混乱していた。
「あれれー?松田さんと萩原さん、このお姉さんと知り合いなの?」
「えっあ、ああまあな…ははは―ちょっと来い」
 わけが分からないが何かあるのだろう。只ならぬ雰囲気で二人は彼女を外に連れ出した。