バカでも可愛ければすべて許される

 ――と、第三者からすれば意味不明な存在だろう彼女は、名を河南という。苗字は不明。
「“ヒカル”はどうした」
「家だ」
「河南ちゃん一人で銀行来たの?」
「ああ。あいつに金の降ろし方をマスターしてこいと言われた」
「「ああ…」」
 だからって一人で行かせるなよ、と同期の顔を思い浮かべる。
「もしかしてさっきの銃声はお前の仕業か?」
「電話を邪魔されたからな」
「それだけで!?怖いよこの子!!」
 犯人たちは萎縮したり気絶したりしていたから、余程怖かったのだろう。こいつが犯人だと言っても違和感ないなと松田は思ったが、黙っておくことにした。
「俺たちがなんとか上手く言っておくから今日はもう早く帰りなよ。ガン○ム始まっちゃうよ?」
「萩原、あんまり甘やかすな」
「いやお前に言われたくないから。俺知ってるんだよ、河南ちゃんち行く度にお前が駄菓子買ってきてあげてること」
「それは今関係ねェだろ!!」
「あるから!!」
「……じゃあ私は帰るぞ」
 口喧嘩に発展している二人を気にも留めず、河南は踵を返した。
「おい待て河南!まっすぐだ!まっすぐ帰るんだぞ!」
「寄り道しちゃ駄目だからー!!」
「……私を何だと思っているんだこいつら」



「――ということがあった」
「萩原たちの心配は尤もだな」
 そう言って苦笑するのはヒカル基、諸伏景光という男だ。
 河南は先程までの出来事に大した関心がないらしく、もうテレビに釘付けだ。その番組が面白いのか疑いたくなるような彼女の横顔を眺めながら、あの二人に後で礼の連絡を入れておこうと諸伏は決める。
「そういえばさー」
「うるさい邪魔するな」
「まだ一言しか喋ってないんだけど!?…強盗と一緒にさ、男の人いたよね?」
 電話越しに聞こえた、耳によく馴染んだ声。まさかなと思いつつ河南に訊ねれば「ああ…」と生返事された。
「変な髪色の男だな」
「その人って…」
「行けェェェェェ!!!!!」
「ごっふ!!」
 突然腹に強烈な衝撃が走った。河南に腹パンされたのである。「なっ…何で…??」思わず蹲り困惑の声をあげたが彼女がこちらの心配をすることはなかった。
「馬鹿者!何故インコースなのだ!!」
「??」
 こちらからすれば何故ゴルフ番組を見ているのか謎である。
「ガ…ガン○ム…は?」
「飽きた」
 何の為に早く帰ってきたんだこいつは――そんなツッコミをかましてやりたかったが、生憎諸伏は河南の野次を最後に意識を失った。