十倍返しは当然さ

 江戸川コナンは少年探偵団と一緒に廃墟に入っていた。この好奇心旺盛な小学一年生たちがこういうところに興味を抱くのは常日頃の行いから思い知らされていて、そういうのは最早日常風景になっていたため今更驚かない…のだが、今日に限りは違った。
「たわけめ、こんなところに財宝が眠っているわけがないだろう」
 何で河南がここに?
 この疑問は廃墟に侵入する前に解決されていたが、それでもいまだ納得がいかなかった。(こいつら…いつの間にこの人と知り合ったんだよ…)己の知らぬ前に河南と顔見知りになっていた少年探偵団。なんでも不良に絡まれていたところを助けてもらったらしい。まあ、銀行強盗を一瞬にして捻り上げた彼女なら不良程度は朝飯前だろう。
「…河南さん、本当について来てもらって良かったの?ほらあの、ヒカルさん、このこと知ってるの?」
「知らんな」
「……大丈夫なの?(主にヒカルさんの胃が)」
「一々気にする必要などない。私が何をしようが私の自由だ」
「河南さんって………マイペース、だね」
「…それほどでもない」
「いや悪いけど褒めてないから!!都合よく受け取らないでくれる!?」
 だが彼女はまったく聞いていなかった。前々から分かっていたが、この人は本当に人の話を無視する。
 そんな会話を繰り広げている間に深部に辿り着く。時計に付属されている簡易ライトで周囲を照らしてみるものの、目ぼしいものは何もない。コンクリート剥き出しの壁に、腐敗した家具類、埃に蜘蛛の巣。あまりの不潔さに顔をしかめる。
「早く出たい」
 一言、河南が簡潔に述べれば、途端に不満の声が上がった。
「えー!でもまだ何も見つけていませんよ!」
「そうだぜ!折角だからもっと奥まで行ってみようぜ!ほらあそこ、地下への階段あるしよ!」
 元太が指差した先には、確かに地下へと続く階段があった。底は真っ暗闇でどうなっているのかはここからでは判断できない。
「気配がする」
 すると不意に、河南がそう言った。「気配?」思わず反芻すれば彼女はちらとこちらを一瞥した。
「河南さん、そんなの分かるの?」
「当然だ」
「いや、それは当然じゃないと思う」
 この人は特殊訓練でも受けていたのだろうか。