十倍返しは当然さ

「…来る」
 ただ端的に、述べる。この時の彼女の瞳は恐ろしいほど鋭く、それだけで人を殺せそうだ。
 ――本当に、何者なんだこの人は。
 彼女の宣言通り、極限まで小さくする努力をしているのであろう足音が近づいて来た。複数だろうか?反響していてよく分からない。コナンは腰に着けていたベルトに手を添えた。
「あァ?ガキか?」
 階段を上がってきたのは二人の男だった。無精髭を生やした、いかにもガラの悪そうな奴らだ。手には袋。そしてもう一人は、サバイバルナイフ。訳有りなのは見て分かった。
「おじさんたち何してるの?」
 そう訊ねてみれば彼らはニヤリと笑った。
「何してると思う?」
「たわけめ。野郎二人で人気のないところで何をするって…ナニする以外にないだろう」
「河南さんちょっと黙って」
 この人が口を挟んだら話が進まない。
「もしかしてこの廃墟に財宝が眠ってるって……」
「あぁ、本当だぜ」
 そう言って、男は手にしていた袋を持ち上げる。
「なんていったって、この前宝石店から奪ってきた宝石をここに隠してたからなァ」
 やはりか。コナンは薄々勘づいていた。
「馬鹿か貴様。こんなところに置いていたって無駄だろう。さっさと転売してしまえばいいものを」
「河南さんアンタどっちの味方!?」
 無駄に助言する彼女を諌め、コナンは少年探偵団を庇うように一歩前に立つ。「大人しく自首したほうが刑も軽くなるんじゃない?」挑発的に述べてみたが、彼らがその通りにするだなんて微塵も考えていない。案の定彼らはナイフを構えてきた。二人の隙を窺う。
 しかし、その瞬間。
「私に殺気を向けたな」
 恐ろしいほど冷え切った声が辺りを支配する。
「はぁ?何だおま――」
 男の一人が音を漏らすことなく倒れる。鮮やか峰打ちであった。彼女の動きがあまりにも滑らかで、攻撃したということさえ一瞬理解が遅れた。
「てっ…てめぇっ」
 もう一方がナイフを振り上げてきたが、それが河南に届く前に男の腹に彼女の膝が食い込んだ。男の手からナイフが離れる。地面に落ちる前に河南がそれを受け止めた。
 柄を逆手に持ち、鈍く光る刃。彼女の瞳も、同じような輝きに満ちていた。その姿はまるで―――。
「河南さんっ!!」
 反射的に叫ぶ。すぐさま冷静になった己の脳が河南を認識する。彼女の眼光炯々たる様はもうなくなっていた。