十倍返しは当然さ

 その後、警察がやって来て男二人組はあえなく御用となった。
「ちょっと…なんなの、彼女」
 現場を静観していたら、それまでずっと息を殺すように潜めていた灰原哀がこっそりと話しかけてきた。彼女がずっと河南を警戒していたことを、コナンは知っている。今回の件で余計にその思いが強くなったのだろう。それに反論する気にもなれず、素直に頷く。
「俺も正直驚いた」
「彼女とあの子たち、これ以上会わせないほうが身の為なんじゃない?」
 尤もな発言だ。コナンもあの時の彼女には恐れをなした。
 河南がナイフを握った、あの時だ。

「彼女、人を殺したことがある筈よ」

 ぞっとするような言葉だった。だが、コナンも同意見であったため口を噤む。瞬間的に確信してしまったのだ。自分が止めなければ、ナイフの矛先が迷うことなく男たちに向かってしまうことを。河南は彼らを刺すことに厭いがなかった。
「念の為に訊くが、組織にあんな人は…」
「聞いたことないわ」
 河南は本当に、何なのか。松田や萩原といった警察側と接点を持ち、“ヒカル”という謎の男と一緒にいる。あまつさえ沖矢…赤井が(一方的なのか分からないが)知っているようだし、理解できない。
「とにかく、暫くはあいつらと河南さんを会わせねーようにしよう」
「そうね」
 当座、そういう対策を取るしかなかった。今のところ彼女がこちらに脅威を向けてはいないし、友好的であると思いたい。
 少年探偵団と会話をしているその姿は、本当にただの歳上のお姉さんだった。だがそれが狂徒に変貌することを、この日、コナンは思い知った。