答えって割と近くにある

「単純に気になったんですよ。だって彼、不思議な人じゃないですか」
「残念ながら奴はお前を嫌っている。諦めは肝心だぞ」
「だから違いますって!」
 ――ん?
 そこで、安室はふと我に返る。
「彼…僕のこと嫌ってるんですか?」
「なんだショックか?全ての人間に好かれるなどあり得ん。そう気に病むことはない」
 別に気に病んでなどいない。ただ少し気になるだけだ。
「僕、嫌われるほど彼と話した覚えがないんですが」
 そうなのである。安室はあくまで彼がかつての友人と繋がりがあるかもしれないから探っているだけで、彼に一方的に嫌われる理由はない筈だ。彼が安室を嫌うなどそれなりのわけがあるに違いない。
「難しいですね。彼と仲良くなりたいのに」
「心にもないことを言うな」
 一刀両断。迷いのなかった即答に思わず押し黙った。
 言葉を失っていると、河南は溜息をついておもむろに話しだした。
「貴様らはよく似ている」
「、は」
「訊きたいことがあるなら面と向かって訊けば良いものを……内に籠もって考えるから余計なことまで思いついてしまうのだ」
 少しは正面からぶつかってみろと窘められ、安室はぽかんと呆けてしまった。
「あの、河南さん…もしかして…慰めてくれてるんですか?」
「思い違いもここまで来れば愉快なものだ」
「そこまで言う必要あります?!」
「さて、私はそろそろ帰るか」
「ちょっと河南さん!話はまだ…」
 踵を返した彼女を引き留めようと肩に手を置いた瞬間――手首に急に痛みが走った。
 一体何が起きたのか。反射的に患部に目を向ければ、河南が安室の手を捻っていた。そんな馬鹿な、と困惑する。あまりの早業に対応できなかった。確かに彼女は銀行強盗を簡単に撃破できる実力者だが、こんな近くにいて攻撃の瞬間に気づけなかったなんて。
 ましてや己は一般人ではなく、公安の人間なのに。
「ここから先は私ではなく奴に直接言うことだ」
「…!」
「ビビりすぎだ。お前も…あいつもな」
 そう言い残し、今度こそ河南は安室に背を向けて歩き出した。安室はそれを止めるだけの勇気を持てなかった。


 ――その日の夜。
 河南はヒカルもとい諸伏景光に昼間の出来事を掻い摘んで話してやった。案の定、諸伏はびくりと肩を震わせて動揺した。
「お前は本当に余計な挑発しかしないな…」
「発破をかけてやったのだ」
「そうかよ…」
 諸伏は呆れた様子だったが、河南は後悔していなかった。
 おそらく安室は“ヒカル”に何かあると睨んでいる。それは、“ヒカル”が“諸伏景光”とイコールの存在だと疑っているのか定かではないが、兎にも角にも今後も水面下での腹の探り合いが予想される。
 河南にはそれが我慢ならなかった。
「多分奴は喧嘩を売られたと思った筈だ」
「は!?」
「暫く夜道には気をつけることだ」
「ちょっ…」
 嘘だろ、と戦慄する諸伏。そんな彼の様子がおかしくて、河南は喉の奥で笑った。