拳で語れば問題ナシ

「果たし状を貰った」
「……はい?」
 聞き慣れぬ単語に、諸伏は素っ頓狂な声を上げた。
「だから、果たし状を貰ったと言っている。今日は少し帰りが遅くなる」
「あーそっかそっか、うん、果たし状ね、遅くなるんだね…って違うぅぅぅぅぅ!!」
 流されそうになったところを寸でで踏ん張る。「何だ急に騒いで」河南は事の重大さを理解していないのか、呑気に耳を塞いでいた。
「何でそんな冷静なの!?てか何で貰ってんだよ!古りーよ果たし状って!!」
「私に言うな馬鹿め」
「帰り遅くなるって…行く気なのか!?」
「当然だ」
 曰く、行かなかったことで逃げ出しただなんて思われたくないらしい。小物の喧嘩に付き合わないとばかり思っていたが、案外彼女は体裁を気にするようだ。
「そもそも差出人はどこの誰だよって訊きたいけど、お前人のこと覚えるの苦手だもんなぁ」
「ああ、だからそれも確かめに行く」
「俺も行って、」
「駄目に決まっているだろう」
 言う間もなく断られる。
「これは私に当てられた勝負だ、誰にも手出しはさせない」
 なんと男らしいことか。思わず納得してしまいそうになったが、河南がどんなに手練れでも女であることに変わりはない。彼女は眼光鋭く諸伏が同行することを固く拒否しているが、諸伏がそれを受け入れるわけがない。
 単純なこと、心配なのだ。
「君が俺より強いことは知ってるけどさ、だからといって見過ごすわけにはいかない」
 断言すれば河南は片眉を上げた。
「ふん、そういうことは復職してから言うんだな」
「……君は痛いところを容赦なく突いてくるな」
 相も変わらない物言いに、諸伏はお手上げだと肩を竦めた。