胃薬とか常備してる奴いるの?

 どうしてこんなことになっているんだろうと、諸伏は内心焦りまくっていた。
「奇遇ですね、ヒカルさん」
「そうだな。こんなところで何してんだ?」
「ただの帰り道ですよ、貴方は?」
「河南を待ってる」
 米花町駅前。今日は諸伏は用事があったため、昼食は外で摂る予定だった。河南は外に何の用もないのだが、料理の腕が悪いので待ち合わせをして一緒に外食しようということになったのだが…どうしてか安室透と出会ってしまった。いや本当にどうしてこうなった。
 取り敢えず会話を続けよう。
「き、君はそういえば探偵もやっているんだっけ?」
「ええ」
「二足の草鞋か。大変だろう?」
 本当は三足だが。
「ありがとうございます。でもなんとかやれてますので」
 そうは言うものの、目の下に薄っすらとできているクマは誤魔化せていない。もしかして気づいていないのか?完璧そうに見えてどこか抜けている幼馴染に思わず苦笑する。
「無理と無茶は違うからな」
「!」
「人間何事にも適度な休息が必要だぞ。物事をスムーズに進めたいならそれを忘れるなよ」
 安室は目を丸くしてこちらを凝視していた。そんなにも驚かれるようなことを言っただろうか。
「人生を休息しているような貴様に言われるとは思いもしなかったのだろう」
「いや人生を休息は言い過ぎ…いいいいいい?!」
「何だその鳴き声は。気持ち悪いな」
 いつの間にか河南が傍に立っていた。忍者かお前はとつっこみたくなる。心臓に悪い。
「いやホント気配消して近づくのやめてくれない!?」
「ふん、そんなことだから貴様はあの時一度戦場で死…」
「わああああああああ!!!」
 この娘の口の軽さは一度医者にかかりたいレベルだ。安室に聞かれていたらどうするんだ。無言で河南を睨みつけるも効果はなかった。
 すると、ふ、と背後で笑った声が。
「貴方たちの漫才は本当に面白いですね」
「いや漫才じゃないんだけど」
「ふっ、私たちなら吉本で稼ぐのも夢ではないな」
「いや今吉本に入るのはまずいでしょ!むしろ夢潰えるから!!」
「っはは」
 遂に安室が声をあげて笑った。久しぶりに見たその顔に、胸の奥がちくりと痛んだ…気がした。
 安室はひとしきり笑ったあと、目元を指で拭った。
「久しぶりにこんなに笑わせてもらいました」
「感謝しろ」
「ええ、ありがとうございます。では僕はこれで」
 そう言うや否や、安室は一度も振り返ることなく雑踏に紛れて消えた。一体何がしたかったのか。
「あの男、随分緊張していたな」
「え?」
「戦場にでも行くのか?」