図太く生きてる奴は鈍感ってわけじゃない

「ヒロミツがウザい」
 唐突な暴言だった。
「え、どうしたの?」
 河南のむすっとした顔を眺めながら、萩原は面白半分に訊ねる。(ふくれっ面可愛いな…)
「何なんだあいつは。何故あんなにヘタレなんだ」
「ああ…」
 むしゃむしゃとオムライスを食べる河南。うん、可愛い。やはりファミレスに連れてきて正解だったと過去の自分を褒めながら「昔はあんな風じゃなかったと思うんだけど…」と述べる。
「お前からも何か言ってやってくれ。でなければ私が大串を奴の前に突き出す羽目になりそうだ」
「待って大串ってだれ」
「まあそれは最終手段として取っておくのだが」
「ねえ大串ってだれ」
「このままでは埒が開かんだろう。やはりお前が何か言うべきだと思う」
「お願い俺の疑問に答えて」
 記憶の糸を手繰るが自分と諸伏の共通の知り合いで大串という苗字はなかった。あとで松田に訊いてみよう。
「それにしてもこの町は妙な連中ばかりなのだな」
「えー?そうかなぁ」
「大体何で毎日殺人事件が発生しておるのだ」
「面目次第もございません…」
 暗に治安が悪いと言われうなだれる。確かにこれは警察の責任だ。萩原自身も米花町が治安が悪いことで他の地域から揶揄されていることは知っていた。
「それもこれも大串やヒロミツ、メガネの餓鬼がいる所為なのか?」
「メガネのガキ?」
 誰のことだろうと首を傾げたが、河南が名前を覚えているわけもないので特定できなかった。
「…それにあの男もそうだ」
「え?」
「あのムカつく野郎に似た雰囲気の男だ。先日メガネの餓鬼と一緒にいた」
「説明がアバウトすぎて分かんないよ。ムカつくっていうのも完全に河南ちゃんの匙加減じゃん」
「あれは絶対に私たちの知り合いだ」
 ――本当に人の話を聞かないんだなこの子。
 今更なことを噛み締める。
「いつか必ず息の根を止めてやる」
「正体を暴いてやるじゃなくて!?」
「ヒロミツがウザい原因の一つが奴だからな。暴くくらいじゃぬるい」
 その言い方だと、なんだかんだで諸伏の心配をしているということか。分かりにくい優しさだなぁとほっこりする。まあその優しさが殺人に繋がるのだから結局倫理的にアウトなのだが。
「大体あいつらは一体何がしたいんだ?」
「それは俺も気になるね」
「なんだ貴様、友人を語る癖に何も知らないのか」
「痛いところ突いてくるね!!職業的にしょうがないでしょ!?」
「ああ言えばこう言う…」
「何で俺が呆れられなきゃいけないの!?」