欲張りに生きとけ

「倒れてたから拾っちゃった」
 まるでモノでも持って帰ってきたようなノリで、毛利蘭は言った。
 発端を説明するほど複雑なわけではない。ただコナンがいつも通り帰宅すれば、どういうわけか机に並べられた大量の食事をすごい勢いで平らげている河南を見つけたのだ。
 おい待てどういうことだ、どうしてこの女がここにいるんだ――と幼馴染の無事を案じたが肝心の蘭は冒頭の言葉をコナンに投げかけたわけである。
「……貴様はどこかで見たことのある顔だな」
「コナンくんは河南さんと知り合いなの?」
 顔だけでもやっと覚えてもらえたらしい。意外そうな蘭に笑顔で頷き、口を開く。
「沖矢さんといる時に何回か会ったんだ。あと前に起きた銀行強盗を捕まえた人だよ」
「へえそうなの」
 武道を嗜んでいるからか、蘭の目が輝く。一度相手になってほしいとでも考えているのだろうか。悪いことは言わない、やめておけ。
 そんな彼女の瞳など露知らず河南はひたすら飯をかき込み続ける。あの細い体のどこに入るというのか。人間とは摩訶不思議なものである。
「それにしても蘭姉ちゃん、よくこれだけ作れたね」
「最初は普通の量を出したんだけど、河南さんが足りないって…」
「図々しいなオイ」
「こらコナンくんっ」
「あっ、ご、ゴメンナサイ」
 思わずツッコんでしまったのは仕方のないことだ。
 ぱちん、と箸を置いたことにより河南の食事が終わる。見事全てを完食していた。
「馳走になった。中々の腕だな」
「あ、ありがとうございます」
 妙に上から目線なレビューに蘭も顔をひきつらせている。
「河南さんこの前安室さんの料理を酷評したって聞いたけどホント?」
「私の知り合いに安室という者はいない」
「いや嘘つかないでよ」
 彼と何回も会っているというのに。まさか彼のことを覚えていないのかという考えが過ぎる。河南のことだから充分あり得る話だ。「この下のポアロという喫茶店で働いている男性ですよ」ここで蘭が助け舟を出した。それを聞いて河南は暫し一考すると、ああ、と目を瞬かせる。
「大串のことか」
「「誰?!」」
「だから喫茶店で働いているいけ好かん男のことだ」
「いやあの人の名前は安室透なんだけど!?」
 蘭の前だが子供のフリも忘れて言えば、彼女は釈然としない顔で答える。
「たわけめ。あれは大串という男だ。安室ではない」
 ―――な…馬鹿な。そんな筈はない。あの人は安室透でありバーボンで……。
 ―――もしかして俺の推理に何か綻びが…?
 ―――あの人はまた別の組織に与していて“大串”が新たなコードネーム?
 完全に混乱しているコナンを他所に河南は呑気に食後の茶を啜る。