図太く生きてる奴は鈍感ってわけじゃない
知人である平賀源外というご老体にあれやこれやと言いくるめられ店にやって来た折、彼が造ったからくりに安易に触れてしまったことにより装置が起動。止める間もなくよく知らぬ場所に転送されたらしい。しかもそれが二度も続き、帰れなくなっている始末とのこと。
正直、彼女の話は荒唐無稽で理解に苦しんだ。転送装置?何だそれは。ドラえもんの秘密道具じゃあるまいし、そんなものが存在するわけがない。
萩原の微妙な心境を悟ったのか河南は鼻を鳴らした。
「貴様が信じようが信じまいがそれが真実だ」
「いやその…現実味がなくて…だってさあ、時空を跳ぶとか、そんなの…あり得なくない?」
河南の浮世離れした雰囲気を説明するには確かにそれが一番納得できる話かもしれないが、それでもやはり受け入れ難い。
「ちなみにその話、ヒカルは知ってるの?」
「ん?はてどうだったか…言ったような言ってないような…」
「重要なことなのに曖昧すぎ!」
「奴に言ったところで帰れるわけではないからな。まあ、その辺はノリとタイミングだ」
―――河南ちゃん、何だかんだでやっぱり帰りたいのかな。
―――松田は河南ちゃんには家族がいないっぽいって話してたけど、元いたところに未練がないってわけでもなさそうだし…普通は帰りたいって思うか。
―――ちょっと寂しいなぁ。
「どうした、不気味な顔をしている」
「せめて暗い顔って言ってくれるかな!?」
本当に遠慮を知らない子だ。
「でもさ、俺、ちょっと分からないことがあるんだけど」
「何だ」
「俺が河南ちゃんに助けてもらったのが七年前…それからヒカルを助けたのが数年前…そして今ここにいる」
何が言いたい。彼女は言った。
「いや、その……見た目が変わってないのは何でかなって」
おずおずと言えばそんなことかと彼女は呆れた。
「そんなこと私が知るわけないだろう」
「あれ?!知らないんだ!」
「生憎私はからくりには詳しくなくてな」
もう良いか?と呟いてから彼女は残りのパフェを口に流し込んだ。豪快な食べっぷりだ。見ていてこちらの腹が膨れる(実際萩原はここへ来て何一つ口にしていない)。
もうこの話は終いだとばかりに河南は立ち上がった。「馳走になった」礼節を心得ているのが意外だ。
「私が礼儀を軽んじるのは大串とあのムカつくメガネの男だけだ」
どうやら顔に出ていたらしい。しまったと思ったが大して気にしていない河南はさっさとファミレスから出ていってしまった。一人で帰るつもりのようだ。つれない。
取り敢えず、大串という人物に心当たりはないか松田に訊く為に携帯端末を手に取った。