友達の友達と話すのは気まずい

 さて、このまま道のど真ん中で立ち話もあれなのでというわけで、移動しながら話すことになった。
「ところでゴッホは新参か?」
「誰やねんそれ」
「平次兄ちゃんは大阪に住んでて、新一兄ちゃんの友だ……、友達なんだ」
「コナンくん何で今友達って言うのためらったかお話しよか」
「落ち着け、新一兄ちゃんの知人以下」
「そうですよ子供の戯言ですよ、新一兄ちゃんの知人以下さん」
「みんなして俺をイジメて楽しい?」
「そんなに熱くなるな新人シンジ
「ホンマに誰!?」
「新一兄ちゃんの知人以下、略して新人シンジだ」
「勝手に命名すな!!俺は平次や!!」
「なに?兄は平次だと?」
「ちょっともー!!俺が喋ると被害増えてくんやけどー!?どうしたらえーかなー!?」
 平次は河南の傍若無人ぶりに辟易しているようだ。哀れに感じるが助け舟は出さない。そんなことをして余計なトラブルを起こしたくないのである。「河南さんは大体こんな感じなので一々気にすることないですよ」しかしながら沖矢は違ったようで、くすくす笑いながらそう述べた。
 ――沖矢さんと河南さんが会ったのって今回が実質二回目なんじゃ…。
 まるで旧知であるかのような話しぶりだ。やはり何かあるのではと彼を見上げたが、彼は意味ありげな深い笑みを一度コナンに送ったのみで仔細は窺えなかった。
「フン眼鏡、貴様ごときに私が理解できるわけもない」
 コナンの疑問を露ほども知らぬ河南はそのまま会話を続ける。
「貴様には私の北斗百裂拳を躱すことさえできないだろう」
 びしり、彼女はまっすぐ沖矢を指さした。
「お前はもう、死んでいる」
 コナンは驚愕する。
 ――ま、まさか赤井さんの偽装死を暗示しているのか!?
 ――やっぱりこの女ただの人間じゃねえ!!
「ところで今日はこのまま帰るおつもりですか?」
 河南の衝撃的な発言を華麗に無視し、沖矢は問う。「何でこないにスルースキル高いん?」こっそり呟く服部に同意した。
「いや今日は使いを頼まれているのでな」
「さっき風に飛ばされたものはその為のクーポン券なの?」
「ああ」
「アンタ意外とパシられるん平気なんやな」
「ヒカルだから受けただけだ」
 その発言に服部はニヤリと笑った。「なんやそのヒカルってのはアンタのエエ人なんか?」下世話な追及である。しかし河南は表情を変えることなく
「どちらかといえばペットだ」
 と宣った。
「ペットの要望に応えるのは飼い主の務めだからな」
「素晴らしい、飼い主の鑑ですね」
 称賛する沖矢を尻目に服部がコナンに耳打ちする。
「あのねーちゃんもしかして相当な変人か?」
「今更気づいたのかよ」
「沖矢さんも相当ヤバいな」
「沖矢さんは良い人だぞ」
 すかさず訂正すれば呆れた目を向けられた。そんな折「そういうわけで貴様らと駄弁っている暇などない」二人の耳打ちなど知らぬとばかりに彼女は去ろうとした。
「ままままあ待ちィや。ここで会ったのも何かの縁、もうちょい話そうや」
「新人貴様……私のことが好きなのか?」
「いやそれはない」
「即答するな愚か者」
「ぐふっ」
 河南のツッコミ(物理)に膝から崩れ落ちる服部。まあ彼なら大丈夫だろう。
「ああそうだ河南さん」
 ここで沖矢が今思い出したとばかりに声を上げる。
「一つ伝言が」
 誰に対しての――?不思議に思ったものの彼が宛名を言うことはなかった。
「“そろそろお会いしたいものですね”」
「……?」
「と、お伝え下さい」
 その言葉を聞くと河南は「うむ」と頷いた。
「よく分からんが分かった」
 ――いや分かってねーのかよ!
 大丈夫かこの人と心配になったが、河南は最後まで堂々とした立ち振る舞いを貫いた。何故あんなにも自信に満ちているのか不思議でならない。
「米花町って……変人の巣窟やな…」
 一連の流れを静観していた服部がそんな呟きをしたことを、コナンは知らない。