三度のメシよりやっぱメシ
ドガン!という派手な音に心臓がバクバクと跳ね上がった。
「な、何だ!?」
驚くコナンとは反対にその男・アイリッシュは表情一つ変えずに音のしたほうへ目を向ける。
土煙が徐々に晴れる。どうやら床が何らかの爆発により吹っ飛んだようだ。「アンタの仕業か?」「わざわざここに爆弾なんか仕掛けるメリットねえよ」彼の言うことも一理ある。ではこの状況は一体何なのか?
固唾を呑んでその場を見守っていれば、薄い土煙に影が見えた。
「誰だ!」
鋭く声を荒らげれば直後にはビリビリとした殺気が襲いかかってきた。
「―――誰だ」
「はっ?」
コナンの言葉を反芻した声に、聞き覚えがある。
「私の食事を邪魔したのは、誰だ?」
正体は河南だった。
(ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!)コナンはアイリッシュと対面した時より動揺した。(ぜっっっっっったいややこしいことになる!!!!)組織の一人に接触でき、あまつさえ彼は対話の余地が―少なくとも今は―ある。できるならこの状況を上手く利用し、組織に近づきたいというのがコナンの本音であった。
どうしようかと逡巡しチラリとアイリッシュに視線を投げかければ、彼はいつ戦闘になっても良いように構えていた。
コナンは反射的に叫ぶ。
「馬鹿か!?あんなの相手にしたら死ぬだけじゃ済まない!!分かんねーのか!??」
「あァ?ハッ、見くびんじゃねえよ。あの女がどんだけヤバいかなんて一目見れば分かる」
余裕綽々とばかりのセリフだが、彼の横顔には一切の油断がない。
「だが避けて通れる相手でもねぇ。そうだろ」
「………それは…」
「俺の後ろにいろ。巻き込まれて死ぬのはお前だ」
―――あれ?なんか敵が河南さんみたいになってる。
やはり人類には共通の強敵が必要なのかと昨今の人類同士の争いに思いを馳せ、コナンは再び河南に焦点を戻す。すると彼女はおもむろに足を上げ、地面を踏み締めた。
ズドンッッッ!!!!!
片方に重いものが乗ったシーソーの如く、彼女の足を起点に地面が競り上がった。
「これは駄目だな」
的確な感想をアイリッシュは述べた。
コナンが返事をするより早く彼はコナンを抱え、手近な椅子を彼女に放り投げた。直後、全速力で走り出すアイリッシュ。
「に、逃げるのかよ…!」
「ありゃ人間じゃねえ。真面目に相手するだけこっちが損だ」
相手との力量差を冷静に、正確に見極める慧眼は流石としか言いようがない。「最初の爆発みてえなのもあの女が腕尽くでやったんじゃねえのか?」冗談半分で呟いた彼だが、おそらくそれが真であることをコナンは悟っていた。
「逃げるな」
「ッ!!」
その瞬間、コナンには何が起こったのかまったく理解できなかった。河南の声がしたかと思えば、大きな衝撃と風圧、ぐるりと回る視界。揺れる世界。それをただ受け入れるしかなく、目を瞑りひたすら収まるのを待っていれば頬にぺたりと何かが落ちてきた。おそるおそる目を開けて見上げれば、アイリッシュの頬が切れて血がだらだらと流れていた。
彼の息が、上がっている。
「とんでもねえなお前。バケモンか?」
「貴様も意外とよく動く」
「お褒めにあずかり光栄だな」
じり、とアイリッシュの足が後退する。本格的にまずい状況になっている。一体何故こんなことになっているのかさっぱりだが、とにかく脱出しなければならない。
そう思った瞬間、河南の背後から途轍もない光量が真っ暗な室内に入り込んできた。唐突すぎて目が眩む。
「「!!!!」」
本能からなのか二人が物陰に隠れる。刹那、バララララという耳障りな音と共に弾丸の雨が降り注いだ。
「おい何だあれは」
「どうせジンだろ。チッ、やっぱりこうなったか」
河南の質問に対し忌々しげに舌を打つアイリッシュを見て、組織に見限られたことを悟る。
「アンタこれからどうするんだよ」
「どうもこうもねえよ」
最早彼には帰る場所がないどころか、警察だけでなく組織にさえ命を狙われる羽目になってしまった。口角を上げる彼に諦観が見えた気がした。
今ここで彼に死なれては、困る。
コナンは覚悟を決めて河南へ向き直る。
「ねえ河南さん、ボクたち今すごくまずい状況なんだ。協力してくれない?」