土壇場こそいい加減に行け

「「え」」
 諸伏と松田の声が重なったのと同時に河南が抜刀してリビングのドアを斬り裂いた。
「あああああああ!!!!」
「つまらぬものを斬ってしまった…」
「それ別番組!!てか玄関の話したばっかなのに何で同じ轍を踏むの!?」
 おかげでリビングから玄関まで吹き抜けてしまった。どの家よりも開放的である自信がある。
「…逃がしたか」
「何を!?」
「誰かの気配があった。斬る前に逃げられた」
「え、殺すつもりだったのかよ」
 松田の引いた声に諸伏も頷く。どうして彼女はこうも手が早いのだろう。
「追うか」
「追わなくて良いって。どうせ君のことだから息の根止めに行くんでしょ」
「当然だ」
 そんな自信満々に言われても――呆れたが、気を取り直して松田に外に出てもらう。今は変装していないため諸伏が出るわけにはいかない。外に設置されている隠しカメラを取ってきてもらい、映像を見ることにした。誰が映っているのか楽しみである。
「…この男…美味そうな髪色だな」
「「………」」
 ――誰が映っているのか楽しみだった時期があったよ俺にもね…。
 諸伏は額に手を当てて天を仰いだ。気を利かせた松田が労るように肩を叩いてくれたが、大した癒しにはならなかった。

 カメラに映っていたのは降谷零だった。

「河南、こいつ銀行にいた男だぞ」
「銀行?」
「お前を引き留めようとしてた奴だ」
「覚えてない」
 本当に興味がないようで、河南は水飴から目を離さない。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ」
「なあ諸伏、お前何であいつに自分が生きてることを伝えねえんだ」
「だって…」
 そうなのである。警察内でも同じ部署に務めていた幼馴染の降谷零…彼は、三年前に諸伏が死んだと思い込んでいる。その誤解はいつか解かなければいけないと思って、早三年。まだ幼馴染どころか家族にさえ己の生存報告をしていない。
「…それにしても降谷は何で俺の後を追ってきたんだ?」
 確かにこの居場所を彼が突き止めるには松田や萩原などを尾行する以外に手はない。しかしその理由は?彼は河南を気にしていたようだから、彼女の正体を知りたかったとでもいうのだろうか。
 いずれにせよ、諸伏の存在を知られたかもしれない。少々厄介なことになった。
「消すか」
「その発想を消してくれる?」
「ぐだぐだ言うな、ヒロミツ。そうだな、選択肢は二つに一つだ」
 ビシ、と指を二本立てる河南。
「殺(や)るか、殺(と)るか」
「「どっちも同じ意味じゃねーか!!」」
 結局その日の内の解決には至らなかった。