「や〜〜〜だ〜〜〜っ!」
 ベポの頭の中では“やってしまった”という後悔の言葉ばかりがぐるぐると回っていた。
 別に油断していたわけではない。たまたま目を離した時、たまたま人にぶつかってそれに謝っていたら、たまたま皆の姿を見失っただけである。だから油断していたわけじゃない、そう自分に言い聞かせて必死に周囲を見渡した。残念ながらローとシャチの姿を発見することができず、それどころかあの目立つ格好をしたマオでさえ、視界には映らなかった。
「すみませーん」
「熊が喋った!?」
「喋ってすみません…」
 とにかく聞き込みだ。手当たり次第にその場に居る人たちに、仲間の特徴を教えて見なかったかと問うが、全てが外れ。自分が先程居た場所よりかなり違うところに居ると窺える。
 仕方ない、船に戻ったほうが良いだろう。このまま闇雲に探すよりも手っ取り早い。きっとローやマオもそう思う筈だと考え、ベポは海に向かった。
 だから、背後の裏路地で茜色の髪が揺れたことにも気がつかなかった。



 一方シャチも、仲間とはぐれてしまったことに頭を抱えていた。ローやベポは特に心配していないのだが、問題はマオである。見た目は可愛いが中身はとんでもない。武器を持っていないとはいえもし彼女がチンピラに絡まれたら、チンピラが無事では済まないだろう。彼女は素手でも相手を捻り潰しそうだ。
 しかしながら無闇に探すのは得策ではない。シャチは船に一旦戻った。
「シャチ、皆はどうした」
 船に戻ると一番にペンギンが迎えてくれた。ペンギンは何か書かれた紙を机に置いてシャチに何気なく訊ねる。
「その様子だと船長たち、帰ってきてないみたいだな」
「何かあったのか」
 声音が固くなる。ああ、と言って先を続けようとしたその時、ベポの慌てた声が聞こえた。バン!と乱暴にドアが開かれたかと思うと息を切らしたベポが室内をぐるりと見回した。
「マオとキャプテンは…」
「帰ってきてねえみたいだ」
「そ、そっか」
「…はぐれたのか」
 静観していたペンギンが落ち着いて言う。
「ああ。でもまあ大丈夫だろ、この島にそんな…」
「いや、少し厄介かもな」
「え?」
 低い声で呟くペンギンに、思わず訊き返す。ペンギンはシャチが帰ってくるまでこの島の情報収集をしていた。その成果を二人に報告する。
「この島、今日イベントやってるだろ」
「ああ」
「どうやらそれは表向きらしくてな、裏ではヒューマンショップで大規模な競りが行われるらしい」
「でもそれとキャプテンたちに何の関係があるの…?」
「馬鹿、キャプテンは賞金首だろ。今日は裏に通じてる奴らが多く蔓延るし、この島には海軍の駐屯所があるから騒ぎを大きくしたくない。それになによりマオは“異訪人”だ。もしそのことに気づかれでもしたら…」
 珍しいという理由で間違いなく買われてしまうだろう。理解が追いつき、ベポは顔面蒼白になった。
「どっどっ…」
「落ち着け、とにかく動ける要員でマオを探すぞ。大丈夫だと思うがついでに船長も」
「アイアイ!」
「…ん?どうしたシャチ」
 ここまで無言を貫いたシャチに、ペンギンは訝し気な視線を向ける。その視線を気まずそうに掻い潜りシャチは頭を掻いた。
「いや、今日マオさあ、すんげー可愛いカッコしてっから、ヒューマンショップ以外も大丈夫かなって思って」
「可愛いカッコ?」
「そ。すんげー可愛いカッコ。何つったっけ…ゴスロリ?」
 首を捻るシャチにつられ、ペンギンも首を傾けた。