「見つけたぞ火拳のエースッ!!」
 空気を割って入ってきた怒声。声を上げた者を筆頭に白服を着た者たちはマオと“エース”と呼ばれた男を取り囲んだ。
「…エース?」
「ん?ああ自己紹介がまだだったな。俺はエースってんだ。お前は?」
「やつがれはマオ」
「……なっ、なにを呑気に自己紹介し合ってるんだ貴様らァ!」
 場違いすぎる彼らのやり取りに白服は怒りを露わにする。その白服は腰に差してあった剣を抜き、エースに向けた。それを皮切りに他の者たちも銃やら剣やらを彼に向ける。
「そこのお嬢さん、安心してください!我ら海軍が必ずあなたを助けます!」
「…ン?」
 どうやらマオがエースに捕まっていると思っているらしいが、全くそんなわけでないのでマオは困ったように眉をハの字にするしかなかった。
 「正義の名の下、貴様を捕らえる!」白服は高らかと叫ぶ。
「キシッ」
 瞬間、マオは歪な笑みを浮かべた。正義?マオの薄桃色の唇から、洩れる単語。
「君たちが、正義?」
「な、何だ急に……」
「ねえ、あの人たち変なこと言ってるネ」
 そんなことを言われるとは思いもしなかったらしく、白服たちは茫然とマオを見つめた。エースもまた、白服と同じだ。だが彼らの戸惑う空気をもろともせずマオは続ける。
「……正義ほど非道徳的なモノは無いヨ」
「なっ何を言うか!正義は“正しい義”と書いて正義だぞ!?非道徳的なもんか!」
「そういう口先だけの優しい言葉は何の意味も持たないんだヨ」
「貴様に…っ何が分かる!」
「煩いヨ。誰かが掲げた“正義”って看板で悪を判断するなヨ、てめえの“正義(ルール)”で判断しやがれ。そんでそれに責任を持て。それができない奴は剣を握るな」
 白服たちは全員、何も言えずにいた。今まで信じてきた正義が砕かれたのだ。こんな少女に、正義とは何かと問われたのだ。
 「くっくっく」そんな中、おかしそうに笑う声が響いた。笑ったのはエースだ。
「お前面白えな」
「…キシッ」
「悪いな海軍。お前らの相手してる場合じゃねーわ」
 エースは何を思ったのか突然炎を発動し、周りを火の海にする。その後、彼は素早くマオを横抱きにすると大きく跳躍してその場から逃げ出した。彼らの行方を追える者は誰もいなかった。