同刻、仲間と離れ離れになっていたローは一人イベントの中心に居た。目的はヒューマンショップである。木を隠すなら森、派手な装飾も屋台や小屋に埋もれる、他の屋敷と大差ない屋敷。そここそが今宵競りが行われるヒューマンショップなのだ。
 屋敷の前に立っていた人物は彼を見るなり血相を変える。どうぞ、と慌ててドアを開けて入室を促した。こういう時、肩書は役に立つ。
 中は薄暗いが予想していたよりも部屋は大きかった。地上は受付、本当の部屋は地下に造られている。確かにこれでは外から見ただけでは部屋の大きさは分からなく、結構見つかりにくい。
「珍しい顔だな」
 長居するつもりなど無かったので壁に背を預けて立っていたら、突然しわがれた声がした。目だけで確認すると、猫背の老婆がローを見ていた。
「…、お前は」
「ひっひっひ、昨日ぶりだね。どうだいあの娘は」
 声をかけてきたのは、昨日服屋に居たあの店員だった。
「何故ここに」
「別に良いだろう。あたしがどこに居ようとも」
「…確かにな」
「それよりも良いのかい、あの娘放っておいて。異訪人だろ」
「ッ!?何故…」
 何故知っている。訊ねるが、老婆はニヤニヤと笑うだけで答えない。
「気ィつけなよ。あの娘、死神だ」
「はあ?」
 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。しかしそれは仕方ないことだろう。なんせ突然神の名が出てくるのだ、訝しむのも無理はない。だが彼のそんな考えなどお見通しだったのか老婆は首を横に振った。
「あたしが言ってんのはあんたらが思うような“死神”じゃないよ」
「…どういう意味だ」
 訊ねるが、老婆は先程の不気味な笑い声をあげたきり何も言わなかった。
 いつの間にか始まっていた競りも思いの外面白くない。期待外れだと溜息をついて踵を返す。老婆の視線を背中で感じながらローは屋敷を出た。「…?」外は相変わらず騒がしかったが先程とはその質が異なっている。喧噪は悲鳴が大半なのだ。何か事件があったことは明白だ。
「船長ッ!」
「ペンギンか」
 良いタイミングでペンギンがローを見つける。何がったと訊ねると、ペンギンは海軍が海賊と交戦中なんだと告げた。自分たち以外にも海賊が居るだろうと予想していたものの、騒ぎを無駄に大きくするなとローは心中で顔も知らぬ海賊に悪態をついた。
「それで船長、その海賊なんですが…」
「あ?」
 ―――キッド海賊団みたいなんですよ。
 (ああ、きっと面倒なことになる…)そう、ローは予見した。