「…なんか、嫌なところだな」
「ここ海軍の駐屯所あるぜよ。それもデカいの」
 船から離れた町中、ズンズンと進んで行くマオを駆け足気味に追いかけるペンギンとアシカは静寂すぎる空気に不安を抱いていた。もしかしたらそういう空気と縁が無いからそう思うのかもしれないのだが、多分、そうではないのだろう。
「海軍のおかげでこんなにも静かみたいじゃ。ここの海軍、裏では酷いことやっとるみたいじゃのう」
「……お前そういうのどっから仕入れてくんの?」
「企業秘密じゃ」
 唇に人差し指を当てるアシカはちょっとだけ可愛い。「…あれ?」そのちょっとだけの可愛さを保ったまま、不意にアシカは固まった。不思議に思ってペンギンは彼の視線の先を見る。すると彼も同様に固まった。
 マオが、居ないのだ。
「まずいっ、船長に刻まれるぜよ」
「早く探すぞ!」
 ブレーキ役が居ないと絶対にマオは厄介事を起こす。その確信はあった。
 二手に分かれて探すことになった。ペンギンは右、アシカは左から島をぐるりと回る。見つけなくても一時間後にはこの場所にもう一度戻る約束をした。
 アシカは顔を歪めながら探した。この騒動がバレたら船長から大目玉だからだ。ただでさえ自分は割と船長から煩わしく思われているのに、面倒事を起こしてしまったとなれば必ずバラバラにされる。楽観的な彼も、それは避けたかった。
「おーい、どこ居るぜよー」
 声を張り上げるものの返答は無い。
 疲れたので一旦立ち止まる。そして辺りに気を配ると、動揺した空気を感じ取った。彼から少し離れたところに、白服の男が数人居る。海軍だった。
「お、おい、応援呼んだほうが良いよな?」
「でも事を大きくしたら…」
「馬鹿野郎!俺たち死んじまうぞありゃ!素直に応援呼んだほうが身の為だ!」
 話の内容からしてあまり良いものではないらしい。しかも命に関わるようだ。それが気になったが、今はマオを優先すべきだ。
 アシカは海軍に見つからないようにその場を去ろうとした。が、彼らの会話の一部に、思わず足を止めることになる。
「あの茜色の髪の女、何者だ!?」
「知らねえよ!取り敢えずお前は大佐に報告しに行け!」
「わ、分かった」
「それよりあの女、どうやって止める?能力者なのか?」
「つーか俺、あの女見たことあるんだけど」
「え、知り合い?」
「いやそういうのじゃ…」
 茜色の髪の女。命に関わるような出来事。(これ…あの娘のことじゃのう)第六感がそう告げていた。
 海軍はアシカに気づくことなく走り出す。マオが関わっているかもしれないので、アシカな彼らを追った。