女の子の件などすっかり忘れた頃、マオはベポと二人でシャボン玉を追いかけたりして遊んでいた。
「マオ、おれあそこのアイスクリーム買ってくるよ」
「やつがれここで待ってる」
「…待っててね?何味が食べたい?」
「チョコ!」
 ベポは近くのベンチで座っているマオを何度も確認してアイス屋に行った。とはいっても彼女とベポの離れている距離は大したことない。肉眼でよく確認できる距離だしそんなに心配することもない。ベポは気を取り直して売店員にお金を渡した。


 そんな彼の様子をマオは見つめていた。特に理由はなく、ただ、何となくだ。しかしここで不意に彼女の視線は外れる。最近見た後ろ姿が彼女の視線を捉える。マオがぶつかった女の子が数人の男に囲まれて薄暗いところへ連れ去られようとしていた。
「たっ助けて!」
「……」
「おねえさん!!」
 まさかの指名である。さてどうしたものかと考えたが、己に必死に手を伸ばす女の子を見ていたら鼓膜にあの声が蘇った。

『助けられる仲間を助けないのも許さない』

 (助けないのは、許さない…)その時マオの心臓は収縮してバクバクと鼓動を大きくした。―――ような気がした。妙に胸元が気持ち悪い。(マユリさんに診てもらいたいナ…)暫く会っていない上官の顔を思い浮かべながら、無意識の内に彼女の身体は女の子を追っていた。
 彼女がベポとの約束を思い出したのは、丁度女の子の腕を掴んでいる男の腕を蹴りつけた折であった。きっと二つのアイスを持ってオロオロしているんだろうと予想しながら、マオは女の子の襟を引っ掴んで大通りに投げ飛ばした。うぐっ、というくぐもった声が聞こえたが気にしない。
「お、おねえさん…」
「……」
「…――ごめんなさい」
「は?」
 急な謝罪に思わずマオは振り返った。すると突如視界に女の子の姿が広がる。刹那、腕を後ろで拘束された。一瞬怯んだがマオは力尽くで女の子を突き飛ばす。しかしそれが間違いであった。
 女の子に気を取られていて、マオは男たちの存在を忘れていたのだ。
 再び腕を取られて何かを嵌められる。見てみると、それは乳白色の腕輪だった。何だこれはと一考しすぐに合点がいった。
 力が、出ないのだ。
「…殺気石(せっきせき)、か」
 マオの呟きに男は笑う。
「その通り。まさか“死神”にも能力者の力を封じる海楼石のようなモンがあるとはな」
「暫く寝ててもらうぜ」
 もう一人の男がバケツをひっくり返してマオにかける。相当な量だったのでマオは濡れ鼠になってしまった。気にせず立ち上ろうした。だが、力が入らない。殺気石には死神の力を封じ込める能力があるものの、体の自由を奪う作用はない。
「……穿点(がてん)……」
 麻酔の一種。霊圧の低い者なら一滴垂らしただけで意識が混濁する危険な薬だ。そんなものをバケツ一杯かけられたのだ。流石のマオもこれには意識がぼんやりして、地面に倒れた。