さて無事に殺気石を解除し斬魄刀を取り戻せたマオたちは、いよいよエース奪還への戦場に踏み込もうとしていた。
「で、それってどこなノ?」
「知らないのぉ!?」
 ボン・クレーという包帯男からツッコミを貰いながら、マオはルフィに顔を向ける。
「マリンフォードだ」
 彼はいつになく真剣な顔で述べた。
 エースの処刑時刻は午後三時丁度。それまでにマリンフォードという海軍本部に向かい、エースを救出せねばならないらしい。
「処刑を止める、かぁ」
 そんな科白、どこかの死神が口にしていた気がする。
 雑念も程々にマオたちは歩を進める。現在いるレベル4は橋の下でマグマが滾ってたいへん暑い。
「やつがれ暑いの嫌いなんだけど」
「あ?知るか…ていうかお前!何で俺の肩に乗ってやがる!?」
「キシッ嫌がらせ」
「降りろ!!」
 クロコダイルは肩に乗るマオを降ろそうと必死だが、こちらも必死にしがみついた。周りの囚人たちが顔面蒼白でマオたちに視線を注いでいるが気にしない。「肩車久しぶりだナ」「許可した覚えはねぇ!」そんな言い合いを繰り広げながら走っていると、前方に背の高い女性が見えた。鞭を持つ彼女の背後には大きな動物が控えている。
 彼女は獄卒長のサディちゃんで、背後の動物たちは獄卒獣というらしい。
「かわいい!欲しい!」
「お前趣味悪いな」
「うるさいワニ野郎」
「誰が鰐野郎だコラァ!!」
「ほんとにワニのくせになに怒ってんだヨ!…あ、なんか隣に白いちっさい奴いる」
 小柄というよりも小人という表現が合っているくらいのサイズだ。「ああ、あいつは牢番長だ。確かサルデスっつったか」何だかんだで律儀に教えてくれるクロコダイルの肩から降り、瞬歩でサルデスの前まで行く。突然のことにクロコダイルもサルデスも虚を衝かれた顔をした。マオはそんな様子を気にすることもなく、不意にサルデスの脇に両手を入れて持ち上げる。
「高いたかーい!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!?」
 じたばたと暴れるサルデスだが、そんな行動はマオの前では無意味であった。
「お前…何やってんだよ」
「ワニ高い高い知らないの?」
「いや知ってる。何でそんなことしてんだって訊いてんだよ」
「サル小さかったから」
「私はサルデスだ!!」
 ぷりぷり怒る彼にはまったくもって説得力がない。マオには小さな子供が癇癪を起こしているようにしか見えなかった。「サルこれ嫌い?コドモにやると喜ぶって阿近から聞いたんだけどナ」阿近め、嘘を吐いたなと内心で毒づく。
「そもそも私は子供ではない!だから離せ!」
「んン〜!ちょっとサルデス!何やってんのよ!」
 サディちゃんが地面に向かってびしりと鞭を打つ。その音に気づいて振り返れば、いつの間にかルフィが獄卒獣を倒していた。なんたる早業。そして肝心のサディちゃんはというと、なんと女になったイワンコフが相手をしていた。
「イワンって両性なノ?」
「ホルホルの実を食べた能力者じゃ。あれくらい奴にとっては朝飯前じゃよ」
 ほれさっさと行くぞ!とジンベエに促され、仕方がないのでマオはサルデスを置いて先に進んだ。彼を持っていきたいと言う前にクロコダイルに目で窘められたのだ。ちえ、と唇を尖らしてもう一度クロコダイルの肩に乗る。彼は諦めたように溜息をついていた。
 彼に乗ったままレベル3へと続く扉の前まで向かう。一足早くそこにいたルフィは、副署長のハンニャバルと戦っていた。だがハンニャバルも流石副署長というだけあって、ルフィに何度殴られても蹴られても立ち上がった。
「何が兄貴を助けるだ!社会のゴミが奇麗事ぬかすな!!貴様らが海へ出て存在するだけで…庶民は愛する者を失う恐怖で夜も眠れない!か弱き人々にご安心頂く為に凶悪な犯罪者達を閉じ込めておくここは地獄の大砦!!」
 ハンニャバルの覚悟漲る声が響き渡る。
「それが破れちゃこの世は恐怖のドン底じゃろうがィ!!出さんと言ったら一歩も出さん!!」