ドフラミンゴとの戦闘の最中、肝心のルフィが後方にいる状況になっていることに気づいた。彼が一番にエースの許へ行きたい筈だ。それなのに何をやっているのだろう。
「仕方ないなぁ…オマエ、一旦オアズケ」
「フフフ!かてぇこと言うな。もう少し楽しもうぜ!」
「しつこいなオッサン。蒼火墜」
 言霊を述べれば蒼炎が噴き出す。死神は知っていても鬼道についての知識はないのか、ドフラミンゴは虚を衝かれた顔をした。その隙にルフィの許へ走る。彼は長物を持った男と対峙していた。
「麦わら何でまだここにいるノ?」
「マオ!」
「…貴様、先程ドフラミンゴと戦っていた奴か」
 ルフィと会話していたのに、どういうわけか敵が平気で話しかけてきた。「面白そうな奴だと思った。相手をしろ」どうやら一定の評価をしてくれていたらしい。見る目があると感心していると、すかさずドフラミンゴが割って入ってきた。
「ミホーク!そいつは俺のだ!勝手なこと言ってんじゃねえ!」
「強い相手と戦いたいと思うのは剣士の本能。貴様に邪魔される謂れはない」
「フフフ!面白えこと言うじゃねえか!じゃあ代わりに俺が相手をしてやろうか?」
 何故か彼らが睨み合う結果となった。「今の内に行こうヨ」「そうだな」互いの敵を互いに任せ、二人は先を急いだ。
 様々な邪魔が入るものの、先頭にマオがいるので後方は然程手こずらないだろう。
「あんまり遅いとやつがれが先にエースのとこ行くからネ」
「あっ待てよマオ!」
 マオの足ならこんな壁、飛び越えるなど訳ない話だ。ルフィの驚きの声を背中で受け止めながら簡単に壁の内側へ入ってみせた。
「海賊が侵入して…がッ?!」
「退けヨ」
 海兵共を薙ぎ倒して先へ進む。どれも相手にならない。果てには逃げ出す輩もいた。よくこんな実力で戦場に赴いているものだ。正義を掲げる背中に、マオは溜息を送った。
「まるで踊るように斬るんだなぁ」
 感心したような声に振り返れば、青キジ・クザンがこちらをまじまじと観察していた。そういう目は大嫌いだ。
「いつまでも見ていたいと思うけど、俺も海兵だからな…ごめんな?」
「なにそれ、情け?ウザいヨ?」
「こりゃ手厳しい」
 あまりにも普通に会話が成立している二人の間では、とても攻撃の応酬が繰り広げられているとは思えないだろう。しかもしっかりと殺気が籠もっている。飄々としている出で立ちの割に、芯はあるようだ。そういうタイプが一番面倒くさい。
 ここ一番とばかりに巨大な氷の波が襲いかかってくる。マオは先程と同じように片手を突き出した。
「破道の六十三、雷光砲」
 瞬く間に稲妻が氷を貫通しクザンに迫る。
「うおっ!?炎だの雷だの…お嬢ちゃんはめちゃくちゃだなぁオイ」
「人のこと言えないデショ」
 果実を口にしただけでこんなでたらめな能力を手に入れられるなど、それこそめちゃくちゃなルールだ。
「やつがれ、オマエに構ってる暇ないヨ」
 背後ではもう既にルフィが迫っている。戦闘不能かと思われていたイナズマが地面を切り取り、エースへの道を繋いでいた。悔しさに似た感情が沸き立つ。こう見えてマオは負けず嫌いであった。これ以上時間を無駄にはできない。「…縛道の六十一、六杖光牢」六つの光の帯でクザンを捕え、先を急ぐ。
「あーあ、フラれちゃった」
 背後から聞こえたのんびりとした声は、相変わらず意図を隠していた。