なにやらルフィと因縁あるらしかった老人が、彼との一騎打ちで敗れ落下していく。
「あれ放っておいて良かったノ?」
「良いんだ……じいちゃんも情けかけられたら嫌だろうし」
 それだけ喋り、共に処刑台に登る。
「エース……!やっと、ここまで来た…!!」
 まだ敵がいるというのに、ルフィは安心して膝に手をついた。甘い奴めと思いつつマオはエースを見つめる。
「死ぬにはまだ早いんじゃない?」
 そうからかうが、彼はいまだ信じられないとでも言うような目を向けていた。
「なん、で……お前が………」
「別にやつがれ、戦えないなんて言ってないヨ?」
「そういうことじゃなくて…!」
「ごちゃごちゃ言ってないで腕見せなヨ。麦わら、鍵は?」
「持ってる!」
 手枷は彼に任せることにし、マオは敵と向き直る。おそらくこの場での最高責任者なのだろう眼鏡をかけた男は、それまでの涼し気な表情を消して怒りを浮かべていた。すると次の瞬間、男がどんどん巨大化し黄金に輝き始めたではないか。
「わ、すげ」
「感心してる場合じゃないガネー!」
「オマエいつの間にいたノ?」
 Mr.3のツッコミを冷静に受け止めた瞬間、肌をピリピリと焼く殺気。咄嗟に抜刀して男の巨大な拳を刀で受け止めたが、マオの細い体では力を流しきれずに処刑台が崩れ落ちる。
「また落ちるガネー!」
 浮遊感。また縛道の出番かと肩を竦めた瞬間、ガッと腕を掴まれた。エースだと認識した刹那、周りが真っ赤に染まる。炎だ。
 処刑台の破片が炎に焼かれ、灰になる。押し潰される心配は無用となった。
「まさかお前に助けられる日が来るとはな…ルフィ」
 ふらついていたあの姿が嘘のような、しっかりした声だ。
「マオ、お前も…ありがとうな」
「礼を言われる筋合いはないヨ」
「ったく…お前がそんなかっこいいんじゃ、俺の立つ瀬ねぇな」
 やれやれと頭を掻いて、彼は敵に向き直る。
「突破するぞ」
「おう!」
 エースを解放できた喜びからか、満身創痍な筈のルフィの顔は笑顔に満ちていた。手助けは必要なさそうである。後方から戦闘を眺め、二人の戦闘により開けた道を駆ける。あとは逃げるだけだ。殆どの者が満身創痍な状態なので、ここは一刻も早く撤退したほうが身の為だろう。
 ――しかし。
 何者かの嘲笑が、エースの足を止める。マオにはまったくもってどうでも良いことが、なにやら彼には気に食わなかったらしい。白ひげと呼ばれる男を馬鹿にされたことにより彼は完全に戦闘態勢に入ってしまった。どうやら白ひげは彼の大恩人であり長らしく、それを嘲られては堪ったものではないようだ。
(やつがれ、マユリさんバカにされてもここまで怒らない…タブン)
「やめろエース!挑発だ!乗るな!!」
 仲間の制止虚しくエースは敵であるサカズキと拳を交わらせようとして――止まった。
「マオッ!」
 悲鳴に似たエースの声。
「そういう顔するくらい、なら…っ最初から勝手なことすんのやめてくんナイ?」
 サカズキのマグマの拳をなんとか斬魄刀で受け止めるが、マオの半身は軽く火傷状態に陥っている。「きっ貴様…っ」まさか身を呈して受け止められるとは思わなかったのか、サカズキに動揺が走った。
 ならば、とばかりに彼の視線がマオから背後に移る。マオはサカズキの次の動きを本能的に察していた。
 全ての動きがひどく緩慢に見えた。そういえば我が隊長が体感時間を遅らせる薬を開発していたなとどうでも良いことを考えながら、マオは手を伸ばした。手を伸ばして、それは、ただ空を切るだけに終わった。サカズキが前方にいる所為でルフィとエースに何が起こったのか見えない。だが、周りの唖然とした表情により予想はついていた。