食堂を飛び出したシャチを追いかけ甲板までやって来たペンギンとエース。彼は壁に背を預け、膝を抱え込んで座っていた。彼の名を静かに呼びながら近づけば、すん、と鼻を啜る音が聞こえてきた。
「分かってる…」
シャチは顔を膝に埋めたまま呟く。
「俺がガキだってことも…マオは元々いる場所に帰ったほうが良いってことも…」
声が段々と涙に濡れてきた。しかしペンギンは慰めの言葉をかけるつもりなんてなかった。ただエースは、困った顔をしておろおろとシャチを見つめている。
「でも…でもよ、それだと……俺らは一体何だったんだよ。今までの旅は何だったんだよ。ヒマつぶしか?元の居場所に帰るまでの、単なる時間つぶしだったのか?」
「……マオにそんなつもりはねえよ」
「分かってる!!でもそういうことだろ!?」
エースの言葉に遂に顔を上げ、激昂するシャチ。「こんなっ…ことになるくらいなら…」ぼたぼたと大きい涙を零す、彼の目。
「最初っから出会わなきゃ良かったんだ…っ!」
絞り出された本音に、今度はエースが怒りを滲ませる。
「シャチ!滅多なこと言うんじゃねえよ!!」
「うるせぇ!大体テメーは何なんだよ!突然出てきてマオの親友ヅラしやがって!!」
「は?ンなモン今はどうでもいいしお前に関係ないだろ!」
「なんだと!?」
「やめろお前ら!!」
流石におかしな捻れ方をしてきたので間に割って入る。二人から鋭い視線を貰いながらも、ペンギンは引かなかった。
「俺たちがこんなところで言い争いをしても何にもならない…そうだろ?」
「………」
「なあ、キャプテンが何の考えもなしに好きにしろって言うと思うか?思わねえだろ。マオだってボサッとしてるわけないだろうし、お前らちょっと落ち着け」
そこで漸く二人の勢いが止まった。互いに暫し睨み合いが続いたが、気力を削がれたように同じタイミングで視線を下げた。言い争う気がないことを確かめて、ペンギンは告げた。
「正直なところ、俺たちには何もできねえよ。どの選択肢が正しいかなんて……分からない」
二人は言葉を噤み続ける。
「どんな選択をしようと、俺たちはマオやキャプテンを見守ろう。きっとそれが最善だ」
「俺たちは……なんの助けにも、なれない」
「そうとは言ってないだろ」
今の涙に濡れているシャチに何を言っても無駄だろうが、彼の屈折した言葉を優しく否定する。
「俺は」
すると急にエースが口を開いた。驚いて彼を見たが、そこには冷静な表情があった。先程のように感情的ではない。
「俺はマオは帰る選択をすると思ってる」
誰も口にしなかったことを、彼は言った。
「そんで多分、仮に今この選択をしなかったとしても、いつかマオは必ず帰るだろうなって…思った」
「…?」
ペンギンは彼の言いたいことを察せられなかった。どうしてそんなことを言うのか理解もできなかったし、意図も掴めなかった。
「シャチ、言いたいことがあるなら今の内に全部言っとけ」
「!」
「きっとマオなら全部聞いてくれるだろうよ」